「今日のごはん、作りたくない...」と思ったことありませんか?料理レシピ本大賞2019「エッセイ賞」受賞で話題の書籍『料理が苦痛だ』(自由国民社)から、著者・本多理恵子さんが気づいた「苦痛の正体」を連載形式でお届けします。今夜のごはんを作る前に、まずは料理の「呪縛」を探ってみませんか?
「インスタ映え」という呪縛
おしゃれな料理、素敵なテーブルセッティング・片付いたキッチン。世にはこれでもか!というほどおしゃれ料理や素敵生活があふれている。テレビを見ても、ネットの動画を見ても、手際良いなぁ、すごいなぁと感心するばかりだ。みんなすごい!でもそれに引き換え自分はどうだろうか――そんな絶望を感じる時がある。
が、例えば思い出してほしい。「突撃!隣の晩ごはん」なる、アポなしでお宅を訪問してご家庭の夕ご飯を見せていただくあの番組を。あの番組で突撃されたご家庭の中で、いったいどれくらい「おしゃれご飯」に遭遇したというのだろうか?たいてい、買ってきたお刺身を皿にうつしたもの、昨日の煮ものの残りと今朝の弁当の残り、そして何やら野菜を炒めたようなもの......愛情あふれる手つかずの日常があふれている。
そうなんですよ!大丈夫!人が食べてる「毎日のご飯」は、決してSNSにあふれる「よそ行きご飯」ではなく、家族が馴染んだ生活感あふれる「いつものご飯」。
しかも食卓には飲みかけのペットボトル、今朝の新聞、子供の弁当箱など、決してきれいに片付いてなどいない。けれどそれは家族の日常、毎日の生活であり、暮らしの足跡がある。
服に例えるなら、毎日毎回おしゃれしなくてもいい。あなたはいつも家の中でストッキングをはいて、コサージュをつけて掃除機をかけているだろうか?(いたらごめんなさい)家にいる時は大抵Tシャツにスウェット、しかもちょっとシミがあったり、破けていたりもする。けれど不思議と愛着があって、それが一番安心してリラックスできる「いつもの恰好」だという人も多いだろう。
料理もそれと同じだ。おしゃれ料理はよそ行き料理。特別な装いなのだ。ランチョンマットにカトラリー、磨き上げたグラスにキャンドルやお花。雑誌から抜け出したような世界の料理は、非日常の世界だ。私たちの普段着はパリコレの洋服ではない。コットンのパンツとリネンのシャツ。それくらいのプチおしゃれで十分なんじゃないだろうか?
もちろん、たまにはよそ行きスイッチを入れてもいい。おしゃれなこともやっているというイベントを自分自身で笑って楽しめれば。おしゃれなテーブルセッティングは例えるなら「舞台化粧」。それを毎日家でやっていたら家族は言うだろう。「今日どうした?」だから舞台化粧はハレの日のためにとっておいた方が良い。
実際、料理サロンにお越しになる生徒さんからも「焼きそば作ってフライパンのまま食卓に出してます」「しかも焼きそばがおかずです」「オンザライスです」「煮物のタレをご飯にかけたのが実は一番の好物です」など、斬新なカミングアウトに出会う時がある。
高い食器はもったいないから結局パン祭りでもらった皿を愛用しているし、第一肝心の食卓だって普段は全然片付かないカオス。その食卓でなかなか捗らない宿題をしている子供に怒り、思わず自分が飲みかけのコップ酒をプリントにこぼした。乾かしても酒臭い宿題プリントを持たせる羽目になったという、可憐なママ友からまさかの武勇伝を聞いた時はなぜかとてもほっとした。
人様の日常は愛と笑いがあふれていて愛おしくなる。そしてそんなカミングアウトに共感し、みんな安心して大爆笑する。「そうそう!うちもそうよ」って。
だから言いましょう。日常なんだからそれでいい。できることをすればいい。
「SNSは夢の世界」。
家族の食事を用意する全ての人が共感!「料理が苦痛だ」記事リストはこちら!
著者自身の背景から始まり、3ステップで実現できる苦痛を減らす方法や、「蒸す」「焼く」「煮る」だけで完成する11の苦痛軽減レシピが、5章にわたってまとめられています