思いや考えていることが「言葉」でうまく伝えられない――。そんな悩みを抱えるあなたのために、フリーアナウンサー・馬場典子さんの著書『言葉の温度 話し方のプロが大切にしているたった1つのこと』(あさ出版)から、アナウンサーが実際に使っている「話し方のテクニック」を連載形式で紹介します。あなたの言葉と心が、もっと相手に伝わるようになりますよ。
叱るとき
お医者さんが病気について説明する際、〝PNP話法〟を心がけていると伺いました。ポジティブ〈P〉なことから入り(相手の緊張を和らげ心の準備をさせ)、ネガティブ〈N〉なことを伝え(病状について説明し)、ポジティブ〈P〉で終わる(具体的な治療について説明し元気づける)そうです。
この話法は、相手がショックを受けるかもしれないとき、マイナスのことを伝えるときなど全般に効果的ということで、PNPならぬPNNPと少しアレンジしてみました。
1.労う(Positive)
いきなり叱りつけるより、まず日頃の労いをする。感謝を伝えたり、「君らしくないな」と理解を示したり。何か気になることがある場合は、「体調は大丈夫か」「何か悩みごとがあるのか」などの声かけもよいと思います。
ちなみに、「最近どうだ?」などラフな声かけを、日頃からしておくことをオススメします。
2.訊ねる(Neutral)
ここが独自の、ニュートラルの〈N〉。
後輩に番組の感想を聞かれたときに心がけていたのが、まず、画面には映らない現場の状況や事情を訊ねることでした。私自身が後輩のとき、それなりの事情があったのに、飲み込まなければならない経験があったからです。
何より、本人の気持ちと状況が理解ができていると、アドバイスが的確になります。
3.注意する(Negative)
ここで気をつけたいのが、注意する対象です。人格と言動を切り離して考え、人格は否定せず、言動だけを注意するように気をつけます。こうすることで、相手のためを思う「叱る」と自分の感情をぶつけるだけの「怒る」を区別することができます。
「君は注意力散漫だからそんなミスをするんだ」と人格を否定すると、いらぬ反発を生んだり、『自分はダメな人間なんだ』と落ち込ませてしまったりするかもしれません。「忙しいときは注意力が欠けやすいから気をつけてほしい」と言動を注意した場合は、反発心が和らいだり、自信のない人が自己否定に走りにくくなったりすると思います。
そして、注意は一度きり。
たまに電車で、ネチネチと絡む上司を見かけますが、部下を自己顕示欲やストレスの捌(は)け口にしないでほしいなぁと思います。
4.明るく送り出す(Positive)
建設的なアドバイスや、自分の経験談(自慢話ではなく、同じような経験をどう乗り越えたかなど)、日頃感じている相手のよいところなどに触れて、最後に、期待や信頼を伝えるとよいと思います。
褒めるとき
せっかくの褒めるという行為も、やり方によっては効果が半減してしまいます。そこで、褒めるときに気をつけたいこと。
1.むやみに比較をしない
褒めるときについやってしまうのが、ほかと比較して褒めること。比較すると、一方を貶(おとし)めることになってしまいます。「××よりも美味しい!」と褒めるより、「◯◯なところが美味しい!」と褒めたほうが、褒められたほうも素直に喜べます。
相対値ではなく、絶対値で褒めることをオススメします。
2.上から目線にならない
一番気をつけたいのが、この上から目線の言葉遣いや態度かもしれません。親しみと、馴れ馴れしさ。敬意と、俺(私)が認めてやってるんだぞ的な傲慢さ。全く違うものなのに、違いに気付いていない人を時々見かけます。
悪気などなく単に言葉の使い方を知らないだけだったり、そもそも「無駄に、なぜか、どこか、偉そう」なタイプなだけだったりすることも多いのですが、上から目線では、せっかくの褒め言葉がもったいないですよね。
3.過剰に褒めない
慇懃無礼(いんぎんぶれい)という言葉があります。褒め殺しという言葉もあります。
4.贔屓(ひいき)しない
相手に好かれたいのか、周りに当てつけしたいのか分かりませんが、たまに、みんなの前で聞こえよがしに一人だけを褒めちぎる人がいます。周囲にいらぬ軋轢を生んでしまいますので気をつけたいところですね。
5.自分にとってのMVPを
活躍が目覚ましい人をみんなが褒めるのは自然なことですが、一方で、日々地道に努力している人や陰で支えてくれている人のことも気にかけ、きちんと言葉で労わったり、感謝の言葉をかけたりすると、全体の士気が上がります。
一人ひとりに目を向けて、その人なりの成長や成果を認めている、という姿勢が伝わるからです。ちなみに、徳光和夫さんをはじめ日テレの先輩方が、おそらく意識的にやっていた褒め方は、
「本人がいないときに褒める」
すると、本人の耳に入ってきたときの驚きと喜びは、何倍にも膨らみます。
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7章からなる本書では、著者がアナウンサー研修で実際に学んだトレーニングのほか、「話し方の心・技・体」という3つテーマで実践的な技術が学べます