思いや考えていることが「言葉」でうまく伝えられない――。そんな悩みを抱えるあなたのために、フリーアナウンサー・馬場典子さんの著書『言葉の温度 話し方のプロが大切にしているたった1つのこと』(あさ出版)から、アナウンサーが実際に使っている「話し方のテクニック」を連載形式で紹介します。あなたの言葉と心が、もっと相手に伝わるようになりますよ。
腹式呼吸がなぜいいの?
面白いもので、「腹を割る」「腹をさぐる」「腹黒い」「腹をくくる」「腹心」「腹づもり」「面従腹背」など、内に秘めた本音や本心を表す言葉に、"腹"が多く使われています。お腹から出す声は信頼性を高めるということを、昔の人は本能的に知っていたのかもしれません。
アナウンサーになって最初に習うのも腹式呼吸です。理由は二つ。深い呼吸により、奥行きと張りのある声になるためと、喉に負担をかけないためです。
頑張りすぎる人が周囲を疲れさせてしまうように、気持ちにゆとりのある人が周囲を安心感で包むように、声も、体のどこかに力が入っていると、耳障りになったり緊張感を与えたりしますし、リラックスできていると、心地よく聞きやすくなります。
質量ともに豊かな声を出すには、心身ともに緊張や力みはご法度。とはいえ、リラックス状態とたるんだ状態は別物です。
なんとなく、ゆとりのある声のイメージは持てたでしょうか? それでは、具体的なステップに移りましょう。
誰でもできる腹式呼吸のやり方
1.姿勢
両足の親指のラインを平行にして、肩幅に開いてまっすぐ立ちます。恥骨と尾骨が水平になるように骨盤を立てて、頭のてっぺんから吊るされているイメージでお腹を伸ばし、腰が反らないように気をつけながら、姿勢をまっすぐにします。肩の力は抜いてください。
これで声を響かせる楽器として、空気の通り道を広くまっすぐに整えることができます。
2.呼吸
鼻からたくさんの空気を吸い、口から(なるべく長い時間をかけて)一定の強さで「ふーーー」っと吐き出す。
吸うときは、お腹だけでなく後ろ側まで腰回り全体を膨らませ、吐くときはあばらを締めるようにお腹を凹ませるのがポイント。胸の高さをキープすると、胸が落ちて空気の通り道である〝筒〟がつぶれたり曲がったりするのを防ぐことができます。
腹式呼吸のやり方として知られている「お腹を膨らませる」方法は、体の前側に意識が偏り、力みやすいので注意が必要です。
腹式呼吸に欠かせない横隔膜は、前だけでなく後ろにもつながっていて、"丹田"もおへその下の表面上ではなく体の中にあります。お腹のぐるりと後ろ側、腰からおしりの辺りにまで意識を向けるようにしてください。
慣れないうちは吸い込むことに気を取られやすく、力んでしまいますので、むしろしっかり吐き切ることを意識してみてください。
人間の体は、空気をしっかり使い切れば、吸おうとしなくても空気が自然と入ってくるようにできています。
3.発声
1、2を意識しながら、発声をします。基本は「あーーー」という長音です。思いっきり大きな声を出すと、最初は10秒でもやっとの方もいると思いますが、無駄のない空気の取り込み方と吐き出し方がつかめるようになってくれば、記録は伸びます。私も、最初は12~13秒でしたが、1ヶ月の研修後、30秒を超えるようになりました。
息が少なくなってきたときの震えた声や蚊の鳴くような声は、使えない声なのでカウントしないようにします。
以上が腹式呼吸の基本です。
が、「やっぱり難しい」「よく分からない」という方のために、簡単に感覚をつかめる方法を次にご紹介します。
腹式呼吸の感覚をつかむ方法
【寝転がって声を出す】
寝転がると、自然と腹式呼吸になり、力まずに伸びやかな声が出る感覚を知ることができます。
私は今でもときどき寝転がって声を出して新聞を読んでいます。
ちなみに疲れが溜まって呼吸が浅くなっているときは、胸の周辺の筋肉が固まって、肺が膨らみにくくなっているので、鎖骨周りや肩甲骨周りをほぐすことも心がけています。
腰回りを膨らませる方法
【椅子の背もたれなど、腰くらいの高さのものに手を置き、軽く前傾姿勢になり、鼻から息を吸う】
これは、劇団四季などでも行われている方法で、息を吸うとき、片手を腰回りに当ててみると、背中側まで膨らんでいることが実感できると思います。
背中側にも空気を取り込む感覚をつかんで、より大きく膨らむように練習してみてください。
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7章からなる本書では、著者がアナウンサー研修で実際に学んだトレーニングのほか、「話し方の心・技・体」という3つテーマで実践的な技術が学べます