思いや考えていることが「言葉」でうまく伝えられない――。そんな悩みを抱えるあなたのために、フリーアナウンサー・馬場典子さんの著書『言葉の温度 話し方のプロが大切にしているたった1つのこと』(あさ出版)から、アナウンサーが実際に使っている「話し方のテクニック」を連載形式で紹介します。あなたの言葉と心が、もっと相手に伝わるようになりますよ。
アナウンサーは黒子である
入社1年目の終わりごろ、局のアナウンサーとしての〝立ち位置〟を教わりました。
歌舞伎の黒子のように、舞台(画面)に登場するけれど、役者さん(共演者)がやりやすいように、観客(視聴者)にとって分かりやすいように、務める存在。同時に、舞台上(画面上)にはいない制作スタッフの黒子として、視聴者とスタッフとの橋渡し役も担っています。
もし、〝自分が何のためにそこにいるのか〟という本分を忘れ、「テレビに出ている私が主役」なんて勘違いをしていたら、私たちの言葉は伝わりません。〝アナウンサーの立ち位置〟と聞くと、「そんなことできない」と思われるかもしれませんが、上手く進めたり、まとめたりする橋渡し役、と考えれば、皆さんも日常で経験されているのではないでしょうか。
たとえば営業担当の場合、開発者の思いや商品を理解して営業する、クライアントの希望を汲み取る、消費者の声をフィードバックする......という風に。
次に挙げる共演者・制作者・取材相手・視聴者を、身近な誰かに置き換えれば、皆さんのお立場と重なるところがあると思います。
1.共演者の黒子
タレントの方がやりやすいように気を配るだけでなく、アナウンサーの先輩に支えてもらう場合や、後輩のフォローをする場合など様々ですが、共演者同士の信頼関係は、テレビ画面にもにじみ出ます。
誰かだけが得するのではなく、協力し合うチームワーク力や、チームの中で自分にできることを見つける力が養われます。
2.制作者の黒子
番組内容が必ずしも自分の知識や興味とリンクしない中でも、知らないことは勉強して、画面に出ることのない制作スタッフの思いも乗せて、伝えられる存在になる必要があります。
そのため、伝えるべきことを仲間と共有する力、伝えるべきことの本質や核心に迫る力が求められます。
3.取材相手の黒子
一般の方に取材をするときは、ご本人が上手く言葉にできないことがあります。芸能人・有名人の場合は、個性的な表現をされることもあります。言葉の奥で「本当は何を言おうとしているのか」を理解して、届ける必要があります。
そのため、相手の本音を汲み取る力が大切です。
4.視聴者の黒子
たとえば待機児童や教育のニュースに触れると、甥っ子や、親となった友人たちの顔が浮かびます。自分が経験していなくても、いろいろな考え方に触れたり、問題の根深さを知ったり、多くのことに気付かされます。「他人事ではない」と感じていれば、経験や立場が異なる人にも共感する力が育まれ、説得力は自ずと増します。
7章からなる本書では、著者がアナウンサー研修で実際に学んだトレーニングのほか、「話し方の心・技・体」という3つテーマで実践的な技術が学べます