「うつ病にかかる人は真面目で神経質、完璧主義」ーーそんなイメージを持ち、自分とは縁遠いものと考えていたコミックエッセイストでイラストレーターのハラユキさん。しかしある日、ハラユキさん自身が「うつ」と診断されます。自身のうつ経験を描いたコミックエッセイ『誰でもみんなうつになる 私のプチうつ脱出ガイド』について、ハラユキさんご本人にお話を伺いました。
＜あらすじ＞
著者のハラユキさんは、神経質でもないし几帳面でもない、むしろ能天気で楽観的な性格。ところが「やる気が出ない」「悲しくないのに涙が出る」「だるい...」という症状に悩まされるようになります。自身の性格から「うつ病」を疑うことはなかった彼女でしたが、好きなこと、楽しいことをしているはずが、急激に気分が落ち込んでポロっと涙がこぼれ...。「やっぱ私どっかおかしい！」とメンタルクリニックへ駈け込みます。診断は、軽度～中度のうつ。うつと向き合うために、ハラユキさんはさまざまなケアを試みます。
体調が良くなってきたハラユキさんは、「自分のストレス」を整理することに。思い当たる原因を、内容によって3種類に分けて紙に書き出したそうです。自分のこと、仕事、子どものことをシンプルに書き、そのときの気持ちも書き出しました。
書き出すことで、「私だってそれなりにストレスいろいろあるし、がんばってるじゃん！」「一個一個は死ぬほど辛いわけじゃないくても重なったことがよくなかったのかも」と自分を客観視できたり、まずは取りかかれそうなことから...と考えを整理できたそうです。
―――ハラユキさんが「自分のストレスを整理したくなった」と思ったきっかけは何だったのでしょうか。
ハラユキさん：一般的に「ストレスでうつになる」とよく言われているからではないでしょうか。ストレスが原因だったら、それを整理するのは大事だと思ったんです。薬で体調を治しても、そのストレス自体が解決してなかったらまた元に戻りますよね。うつは薬だけでは治らないとも思っているので、根本の原因を探りたかったんだと思います。
ハラユキさんにとっては、息子さんの中学受験やPTAに関することもストレスの原因だったそう。しかし子どもがらみのアレコレは、イヤだと思ってもなかなかやめられないもの...。
考えた末、ハラユキさん仕事をセーブしようと決断。かなり勇気のいる決断でしたが「いざとなったら休める」という状態にすることで、安心して仕事に取り組めるようになったそうです。こうして書き出すことで、「ストレスの見え方」は変化したといいます。
「老い」にもちょっとだけ前向きに これまでの人生経験を活かす
うつになった原因をいろいろ考えると、苦手なことが重なったと同時に、年を重ねて体力などが弱ったことも大きいのでは...と感じたハラユキさん。「世の中にはもっと大変な人がいて、うつにならずに元気な人もいっぱいいるのに、これぐらいで情けない...」と思った瞬間、あることに気がつきます。
ハラユキさんは、産後ワンオペ育児をしていたときに、「甘えちゃいけない」「もっと大変な人がいる」と考えていたそうです。その後「大変さを人と比べるのは無意味」「辛いものは辛いでいいんだ」と、当時学んだことを思い出したハラユキさん。
今回は仕事を減らしたり、クリニックに通ったり、生活改善も試し「昔できなかったことが今はできる！」と感じたのだそう。それは人生経験を重ねてきたからこそで「老い」にも少し前向きになれたといいます。
―――不調を感じてすぐに仕事を調整して、クリニックを受診したり生活習慣を見直すなど即座に行動できたのはなぜですか？
ハラユキさん：私の場合、お休みをもらった仕事に関してはやる気や好奇心のないままこなすのが難しい内容だったんです。加えてラッキーだったのは、そのとき抱えていた仕事の担当さんはそれなりの年数お付き合いのある編集さんが多かったので、休みのお願いがしやすかったというのもあります。ハードなスケジュールに対応してきたこともあるから、休むときがあってもいいだろうと思えました。これが例えば会社に入ったばかりだとか、そういう状況だったらもっと躊躇しただろうなと思います。
うつと向き合うこと
うつのことをご主人に報告すると、驚いてはいたものの、特別に心配したり気を使うわけでもなく、ご主人の生活自体は何も変えなかったそう。そのためハラユキさんは、必要以上に罪悪感を持つことはなかったといいます。
―――うつについてご夫婦で話し合うことはありましたか？ また、日常生活でご主人の行動に助けられたことはありましたか？
ハラユキさん：聞かれたことに答えたり、症状の報告はしていましたが、しっかり話し合ったとかはしなかったように思います。最初から受け入れてはくれたので。あと、つくりおきのおかずを作ってくれたり、家事をサポートしてくれたのはありがたかったです。余計なことは言わず、手は動かしてくれた。そこは本当にすごいと思いました。
―――現在うつ病治療中の方や体調の不調を感じている方に、伝えたいことは何でしょうか？
ハラユキさん：いろんな本を読んだり話を聞いたりして実感したんですが、うつになる人は真面目で頑張れる人が多いのだと思います。最初から怠けていたらうつにはならない。頑張れるタイプだから頑張り過ぎてしまった。だから『うつになるなんて心が弱い』なんてことはなくて、むしろ『心が強いから、頑張りすぎる体を強制的に活動をストップさせるしかなかった』のです。うつだと、つい自分を責めてしまいがちですが、まずは頑張ってきた自分を認めてあげてほしいなと思います。本当におつかれさまです、と言いたいです。
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悩みや痛み、自分と向き合うことで、これからの道が自然と開かれていくかもしれません。生きていく上で必要なヒントが、ハラユキさんの作品に詰まっています。
