上手に気遣いしながら、つい「いい人」になって、ツラくなってしまっている人いませんか? そこで、カウンセリング歴25年、8万件を超える臨床経験のカリスマ心理カウンセラーの最新作『「ひとりで頑張る自分」を休ませる本』(大嶋信頼/大和書房)のエッセンスを、連載形式でお届け。脳科学と心理学に基づいた「自分中心」になる生き方で、周囲も自分も輝かせる秘訣をご紹介します。
あなたを悩ませる人間関係の「恒常性」
人間関係が苦しくなる原因はたくさん考えられます。
その中でもとても大切なのが、「恒常性」というものです。
「恒常性」は、人に備わっている機能で「真ん中に戻す力」が働くこと。
「元気!」というポジティブさが生まれたら、気分の高まりを落ち着かせるために「ゆううつだ?!」というネガティブさが生まれて中和する。この心の働きも「恒常性」です。
たとえば、前日にみんなで楽しくお酒を飲んで「楽しい!」とはしゃいだ翌朝、「う?!やっぱりあんなに騒ぐんじゃなかった?!」と苦しくなるのは、「楽しい!」という気持ちの高まりを「苦しい!」という気持ちで中和しているのです。
何か楽しみにしている時も「もし嫌なことが起こっちゃったらどうしよう?」と不安がよぎりますよね?これも頭の中で「真ん中に戻す」という恒常性の機能が働いているから。
これは逆のパターンでも同じです。元気がなくなっても、しばらくすると「だんだん元の状態に戻ってきた」となるのは、恒常性を保つ機能が働いているためです。この恒常性が人間関係でも働いているということは、あまり多くの人には知られていません。
私は「ストレスに対する人のホルモンの動き」に興味があって、ストレスホルモンの研究をしたことがあります。
大きな音で車のクラクションを鳴らされた時、「いったいなんだ、こいつは!?」とイラっとするのは、音が鳴った瞬間にストレスホルモンの値が高くなるからです。ストレスホルモンが分泌されると、相手と争ったり、逆に急いで逃げたりするための、身体や気持ちの準備ができます。
ストレスホルモンが分泌されてイラっとすると、心拍数が上がり、戦ったり、筋肉を収縮させて思いっきり走ったりする準備ができます。
ところが、人によっては「とっさの時にストレスホルモンが分泌されない(少ない)」というケースもあります。
その場合、時間が経って後悔が襲ってきて、「あの時、ちゃんと言ってやればよかった!」と思ってしまいます。
そして、「怒りがなかなか収まらない」となってしまうのです。
ある時、「夫が怒りっぽいうえに、なかなか収まらない」というご夫婦がカウンセリングにいらっしゃいました。旦那さんはまるでヤンキーのような態度で、横に座っている奥さんが「あんた!人前なんだからちゃんとしてよ!」と注意します。
そこで、旦那さんのストレス刺激の検査をしてみたら、ストレスを受けた時に、ストレスホルモンがちゃんと分泌されていないことがわかりました。
一方で、奥さんは、ちゃんとストレス刺激でストレスホルモンが分泌される状態でした。そこで、「ストレスホルモンがちゃんと分泌されるようにしましょう!」と旦那さんだけを治療したんです。
それから数か月後、再びそのご夫婦がカウンセリングにいらっしゃった時、おどろくことに夫婦の立場が逆転していたのです。
奥さんがヤンキーのような恰好をして荒っぽい話し方なのに対して、横に座っている旦那さんは、背筋をピンと伸ばしてちゃんと受け答えをしていて「いい人」に変わっているではないですか。
そして、ストレスホルモンの検査をしてみたら「え?奥さんと旦那さんの立場が逆転している!」と結果を見てショックを受けました。
「いい人」だった奥さんのストレスホルモンが出なくなっていて、今度は旦那さんがちゃんとストレス刺激でストレスホルモンが分泌されていました。
この時「本当に人間関係でも恒常性があるんだな」と実感しました。
ほかの親子でも検査をしてみたら同じ結果が出てしまいました。
子どもが「いい子」になって落ち着いた反応をするようになったら、今度はお母さんの反応がおかしくなった、という結果が見られました。
つまり、個人の体内のホルモンバランスだけでなく、人間関係でも「恒常性」が働いているのです。
だから、あなたが周りを気遣う「いい人」になると、相手は「いい人」の逆、つまり、あなたを振り回す人になってバランスを取ろうとする。
あなたが「いい人」でいる限り、どんどんと悪くなり、「どうして私は足を引っ張られるんだ!」と人間関係が苦しくなってしまいます。
先ほどのご夫婦の場合、はじめ奥さんは「いい人」で、旦那さんに一生懸命に優しく接して尽くしていました。
しかし、旦那さんは「働かないダメ男」にどんどんなってしまいます。そして、旦那さんが「働いて家族を養っていくぞ!」と「いい人」になった時に「奥さんが家事をやらなくなった!」となるのです。
相手のためにと「いい人」になれば、相手はそのバランスを取るために足を引っ張るような「悪い人」になってしまう。
だから「いい人」を続ければ続けるほど、周りは自動的にそのバランスを取ろうとするから、あなたにとって「悪い人」ばかりになってしまって、人間関係が苦しくなってしまうんです。
第3章「自己肯定感をジャマする万能感を捨てる」、第6章「『嫌われる』が怖くなくなる」など、「いい人」をやめたくてもやめられない人のための「目からなうろこ」のメソッドで、心が晴れる一冊です