少子高齢化に歯止めがかからない日本。厚生労働省の推計によると、認知症高齢者の数は2025年には約700万人、65歳以上の高齢者の約5人に1人に達すると見込まれており、もはや認知症は"国民病"ともいえます。
特徴的な症状の一つが、今起こっていることを数時間後や数日後には忘れてしまうという「記憶障害」。ケアする側もされる側も極力ストレスを感じずにこの症状と向き合うには、どうすればいいのでしょうか。認知症の方たちがホール係を務めたレストランのお話、書籍『注文をまちがえる料理店』にそのヒントがあるようです。
「まだご飯を食べていない」と言われたら...
食事を取ったばかりなのに「食べてない」と言い張る、そんなときは、言い分を否定せず、忘れてしまったことや間違いを受け入れて楽しんでみる寛容さを持つことができたらいい、と著者の小国士朗氏は考えます。
具体的な対策としては、
・「今準備しているよ」と言い、お茶を飲んでもらったり、果物など軽めのものを食べてもらったりする。
・目に付きやすいところに簡単に食べられるものを置いておく。
忘れること、間違えることに対する、肯定的な新しい価値観が生まれるかもしれません。
勝手に外に出かけてしまうときは...
認知症の方が一人で家を出てしまい、警察に保護される事例もあります。途中で記憶が続かず、出かけた目的が分からなくなってしまうようです。
1980年代から介護に携わる認知症ケアの第一人者で、本書にも登場する和田行男さんは、認知症になれば体の拘束や部屋の施錠などが当たり前、との考え方に対して疑問を持ち、「"人として普通に生きてもらう"ことを大事にして、自由を奪わない形でサポートしてきたい」といいます。
具体的な対策としては、
・本人が外へ出たら、一緒に世間話などをしながら歩き、ある程度経ったら「そろそろ帰りましょうか」と促してみる。
和田さんは、認知症の方たちが、自分の意思を行動に移す自由を守り続けていきたいと考えています。
介護っていうのは、やっぱりその人の持っている力を、その人が生きていくうえで必要なことのために引き出していくことだと思う
そう仰る和田さん。記憶障害がある人は、「今」を認識する力を使いこなせません。それを助けてあげて、何とか自力で人として生きられるよう、応援してサポートするのが介護の一つの形だと考えています。
すぐに忘れてしまっても、「怒られた」「バカにされた」という悪い感情は、本人の心に傷を残してしまうこともあるそうです。できるだけ優しく穏やかに、おおらかな気持ちで接すること、それが、ひいては介護する人の心のケアにもつながっていくのではないでしょうか。
文/銀璃子
(小国士朗/あさ出版)
ホールで働く皆が認知症で、注文を間違えることもしばしば。しかし、それもお楽しみの一つと考えてほしいという、一風変わったレストランが舞台。なぜか気持ちがほっこりとしてしまう実話です。