【おむすび】朝ドラあるある「登場人物がみんなアホになる魔法(呪い)」...昔ながら朝ドラ感満載だった今週

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「登場人物がみんなアホになる魔法(呪い)」について。あなたはどのように観ましたか?

【前回】最も愛すべきキャラかも...丁寧な取材に基づく"あの日"の情報と、おおらかな物語で輝く翔也(佐野勇斗)

※本記事にはネタバレが含まれています。

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橋本環奈主演の朝ドラ『おむすび』第11週「就職って何なん?」が放送された。

今週は昔ながらの大雑把な牧歌的朝ドラ感満載の週だった。おそらく『あまちゃん』以降や、朝ドラ史上最高傑作と名高い『カーネーション』から朝ドラを観始めた人にとってはピンとこないだろうが、古くから朝ドラを観ている人には「朝ドラってもともとこんな感じだったよね」と思う内容だろう。

冒頭ではギャングのような格好の歩(仲里依紗)のマネージャー(一ノ瀬ワタル)が登場。先週、歩が真紀の父・孝雄(ナベさん/緒方直人)と向き合い、和解イベントを終えたことで退場になる紙芝居的展開は、清々しく朝ドラ的だ。

真紀が父を「日本一の靴職人」と言っていたこと、仕事する姿が一番好きだったことを歩が発つ寸前にナベさんに伝えに行くのは、もちろんヒロイン様。そこでナベさんは歩に依頼されていたギャルリメイク靴(ギャルというよりゴスロリという指摘多数)を持参し、ナベさんも旅立つ。

あっという間に時間経ち、学びや努力の過程を描かないのもまた、古式ゆかしき朝ドラだ。

結たちは就職活動をするが、進路について結が進行役になり、一人一人聞いていく学芸会的会話スタイルもどうかと思うが、面接で結がパラパラを踊り、ドン引きされる描写も笑うべきところなのか悩む。

一方、翔也(佐野勇斗)は「魔球」で活躍。スポーツ理論が確立される前の『巨人の星』など1960年代~70年代の力技おもしろスポコンのノリだが、どうかと思うのは、本来は静かに見守る守備のターンで「いけいけ、ヨン様!」コールを騒々しくする米田母子。攻守の交代がないスポーツのファンが球場にお祭り感覚で来て、守備のときまで騒いで白い目で周囲から見られるのはときどきあるが、ピッチャーの彼女とその母がやるなら仕方がないのか。

ともあれ、朝ドラには昔からある「登場人物がみんなアホになる魔法(呪い)」が、今週は絶好調に効いている。

順調に活躍する翔也はいつもの中華屋でバカ食いを続け、プロポーズ。結の弁当食いまくりで体のキレが悪くなった反省が全く生かされていないのもすごいが、栄養管理の話をおろそかにしても「ムードないプロポーズ」を描く必要があったのだろうか。

周囲のみんなの就職先が決まる中、年齢の高い森川(小手伸也)と結だけ苦戦。しかも、仰天したのは「うちのクラスで米田さんと森川さんだけなんだよねー内定出てないの」という無神経な言葉を投げつける先生(相武紗季)。

建前だけでも「私たちの指導力が及ばず」「あなたたちの力になれたら」と言うものだろうに、まるで他人事で、受ける範囲を広げろというアドバイスをするのみ。それにしても役名を正しく把握している視聴者が少ないと思われるほど相武紗季の扱いが雑だが、本当に専門学校編終了と共に退場なのか。

もう一つ、今週視聴者を仰天させたのは、聖人(北村有起哉)が家出中の18歳の愛子(麻生久美子)をはらませていた事実。「クソ真面目でズルができない」設定の聖人が未成年を妊娠させるとは思えないため、誰かの子(歩)を妊娠した愛子を聖人が受け入れて夫婦になり、実は歩と結は異父姉妹だった設定があるんじゃないかと一部では噂されていた。となると、それが後半の一番の見せ場になると思ったのに、まさかの若者コスプレで回想シーンがギャグとして描かれる。こうした行き当たりばったりの反省を踏まえて「クソ真面目でズルができない」父になったのか。しかし、歩の1万円シャンプーをうっかり使って薄めて誤魔化していたしな......。

就職活動の範囲を広げようとする結に「子ども好きだし、保育園も合ってるかもね」(by愛子)という設定も登場。

そんな中、澤田(関口メンディー)の巨人入団が決まる。在京球団に行くため裏切り者と言われる一方、ドラフト1位の貢献を交渉材料とし、お世話になってきた会社の社食に栄養士を置く提案をする。リーマンショック後の経営状況から1度は断られていたが、野球部専属でなく社員食堂なら、ベテランでなく新卒ならカネの問題もクリアできるという条件で、結の就職について翔也の相談を受けていた澤田が結に声をかける。

「献立表、すっごくよくできてた」「活躍できてるのは君の栄養管理のおかげだ」と結を高く評価するが、最近はバクバク食べている翔也しか見ていないのだが......。

ありがたい提案だが、彼氏のコネで就職することに躊躇する結の背中を押してくれたのは、愛子から相談を受けてやってきたハギャレンだった。自分が甘えてるんじゃないかと言う結にルーリー(みりちゃむ)は「てか、甘えてよくね?」と肯定する。

さらに森川に不倫疑惑が。実はバツイチで、自分に栄養士の学校を勧めてくれた調理師の彼女と再婚し、弁当屋をすると言うオチで、そのエピソード必要?と思ったが、これもおそらく「トライして失敗してもいいんです。僕なんか46歳で学生をやり切ったんですから。本当にやりたいことを思いっきりやるべきです」と結の背中を押すためだろう。

卒業式では、沙智(山本舞香)が佳純(平祐奈)のズル休みのためにノートをとっていたことや、大根のかつらむきが下手な結に手取り足取り教えて、ギリギリ卒業できたことなどもセリフで語られる。むしろ大根のかつらむきの練習や試験のほうが森川の不倫疑惑より描くべきことではなかったか。

そもそも「困った人を放っておけない=米田家の呪い」という設定だが、振り返ると結は他者を助けているよりも助けてもらっていることばかり。この呪いに一番縛られ、苦しめられているのはもしかしたら制作陣かもしれない。

文/田幸和歌子

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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