【おむすび】内容薄めの新・朝ドラに視聴者が"好意的"な理由は...謎のスパイス・風見先輩(松本怜生)も気になる

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「あっさり薄味の2週間」について。あなたはどのように観ましたか?

【前回】『正直不動産』シリーズの制作陣に期待が膨らむが...散りばめられた「朝ドラあるある」に賛否

※本記事にはネタバレが含まれています。

【おむすび】内容薄めの新・朝ドラに視聴者が"好意的"な理由は...謎のスパイス・風見先輩(松本怜生)も気になる pixta_78254031_M.jpg

平成時代のギャルが栄養士となり、現代人が抱える問題を食の知識と"コミュ力"で解決しながら、縁や人をむすんでいく、橋本環奈主演の朝ドラ『おむすび』2週目。

書道部に入った橋本演じるヒロイン・米田結(よねだ・ゆい)は、平日は書道、土日は家族や学校に内緒でギャルたちと交流する「ギャルと書道の二重生活」に。そんな中、「博多ギャル連合(ハギャレン)」が糸島のイベントでパラパラを踊ることになり、結も総代・ルーリー(みりちゃむ)に強制参加を迫られる。ハギャレン初代総代だった姉・歩(仲里依紗)と比べられ、うんざりする結。一方、歩がギャルになって不良のようになったと後悔している父(北村有起哉)は、結に過干渉気味で、それを咎める母・愛子(麻生久美子)と小さく衝突。

結は幼なじみ・古賀陽太(菅生新樹)の野球の試合に応援に行くが、9回裏、3対3ノーアウト満塁のチャンスで相手校・福岡西のピッチャーが交代。登場したのは、球速145キロの剛腕・四ツ木翔也(佐野勇斗)。結にホームランを打つ宣言をしていた陽太は凡フライに終わり、試合は延長10回表に10点を奪った福岡西が勝利、四ツ木は地元紙で「福西のヨン様」ともてはやされる。

そんな中、両親が多忙&不仲で寂しい思いをしていたルーリーは深夜に町を徘徊、補導されるが、警察には親の名前も連絡先も伝えず、身元引受人としてハギャレンの仲間たちにSOSを出す。メールを見た結は事情を話し、晩御飯までに帰ると父に約束、ルーリーのもとに駆け付ける。続いてハギャレンの仲間たちも来るが、警察は大人でないと身元引受人になれないと言い、その瞬間に愛子が登場。歩のときにギャル文字を学んだからメールを読むことができたと言い、娘と友人たちを連れ帰るのだった。

正直、何の起伏もなく、さしすせそがない病院食のようにあっさり薄味の2週間。スタート2週間の内容の薄さは正直、ここ10年の朝ドラの中でも1番だと思うが、面白いのは、自分も含めて好意的に解釈しようと努める視聴者がそこそこいること。

なぜなら脚本を手掛けているのは、『正直不動産』や『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』『監察医 朝顔』の根本ノンジだ。特に『監察医 朝顔』は法医学ドラマでありながら、命の物語であり、食事シーンを中心とした家庭の日常描写が魅力の物語だった。何者でもない、何事も起こらない日常系朝ドラの最高峰とも言える岡田惠和脚本の『ひよっこ』路線を想像した人も多いだろう。「根本ノンジなら、重い過去や背景がある中でも、温かくクスッと笑える日常を描いてくれるはず」とドラマ好きの人々は信じている。おそらく同じ内容をノンクレジットで観ていたらボロクソ叩いているであろう人も黙らせる「実績」と「信頼感」だ。

そんな中、日常のリアルで抜群なのは、野球狂の祖父(松平健)。そして、あっさり薄味の物語に謎のスパイスとして機能してくれているのが、書道部のイケメン先輩・風見(松本怜生)だ。

イケメンだから目の保養......なんて甘っちょろいことをドラマ好きの人々は言わない。ビジュアルは二の次三の次だ。

第1週では「つぶやき女将」ばりの謎のウィスパーボイスが、物語の中で明らかに異質で、見目麗しさと胡散臭さ・若干の不気味さを醸し出していた。しかし、第2週では、本当は野球部に入りたかったと言い、「残念ながら運動神経が壊滅的に悪くて」とサラリと告白。そこから野球の試合に興奮する野球オタクぶりを炸裂させる。風見先輩、幼馴染よりヨン様よりキュートな人じゃないかと思った視聴者も多いだろう。

とはいえ、現時点では、いわゆる朝ドラの悪いところを煮詰めた感もある。例えば幼馴染がヒロインの賛美者に過ぎないこと。相手役に見える男性が「最初の印象は最悪→恋」のパターンに見えること。主人公の顔のアップが多いこと。「困っている人を見かけたら放っておけない」ヒロインのキャラ設定が、物語を観る限りそこまででもないこと。警察が連れてルーリーを連れて行こうとした瞬間に結がスローモーションで登場、大人がいないと言われると愛子が登場というご都合が、まるで立ち聞きして入りのタイミングを見計らったように、セリフを言い終えた瞬間に起こる演出。

そんな中、一部ユニークキャラのみネットの人々に愛され、沸かしてしまうのも(詳述はここでは避けるが、『だんだん』の"キモスカ先輩"、『ウェルかめ』の"キモさこさん"など)、昔懐かしい朝ドラ的ではある。

ちなみに、子役期間の冒頭2週だけ盛り上がり、右肩下がりになった朝ドラは山ほどある一方、いわゆる「名作」は第1話から面白いのが定石だ。そんな中、薄味の『おむすび』がこの後盛り上がり、社会現象を巻き起こすようなドラマに化けたら、それこそ朝ドラ史上初の現象となるだろう。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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