【おむすび】最も愛すべきキャラかも...丁寧な取材に基づく"あの日"の情報と、おおらかな物語で輝く翔也(佐野勇斗)

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「丁寧な情報とユルめな脚本」について。あなたはどのように観ましたか?

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※本記事にはネタバレが含まれています。

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橋本環奈主演の朝ドラ『おむすび』第10週「人それぞれでよか」が放送された。

神戸のさくら通り商店街で夏休みこども防災訓練が行われることになり、結(橋本環奈)は役所の若林(新納慎也)から協力を頼まれ、献立を考える。

自身も被災した阪神・淡路大震災のことを美佐江(キムラ緑子)に聞きながら、避難所でおむすびをもらったことを思い出す結。美佐江は当時、結の父・聖人(北村有起哉)が仕分け隊長をしていたと話す。

被災するまでの結は、おむすびを「冷たい、レンチンして」と見ず知らずの人に平気で言うくらい、子どもの本能そのまんまの子だった。その一方で、おむすびが冷たい事情を語った女性の涙や表情は忘れられずに心にずっとこびりついていた。そこはリアリティがある。

しかし、「ズルができないクソ真面目な人」として仕分け隊長に任命された聖人は、今では歩(仲里依紗)の1万円のシャンプーを気づかずに使い、ごまかすために薄めるという、よりによって理髪師にあるまじきズルをする。ここはズルができなかった聖人の加齢による変化ととるか、家族に対しては別ととるか、結局人間って多かれ少なかれズルするよねと、単純に笑うべきところなのだろうか。

ともあれ、結は専門学校の仲間たちと共に、阪神・淡路大震災当時、何が炊き出しで出されていたかを聞き取り調査する。意外に豊富にあった具材に森川(小手伸也)らが驚くと、実は永吉(松平健)が避難所に駆け付け、食材集めに奔走していたことが明かされる。糸島から駆け付けた永吉が不案内の地で活躍できるファインプレーは、おそらくあまり家にいなかったトラック野郎という設定が生きているのだろう。

朝ドラヒロインらしくお節介な結は、美佐江に真紀の父・孝雄(ナベさん/緒方直人)と仲直りしたらと言うが、大人はそんなに簡単じゃないと反論される。美佐江もまた、兄と兄嫁を震災で失っており、自分だけが家族を亡くしてつらい顔をしているナベさんに苛立ちを感じるというのだ。

震災後にいち早くパン屋を開店した美佐江らだったが、総菜屋だった夫(宇仁菅真)は震災前にはパンなど焼いたことがなく、「何でも良かったんよ、あんときは」「下向いとっても何も変わらへん。ため息ついとっても1銭も入ってこうへん」と美佐江が「パン屋でもやろかーいうて」夫にハッパをかけたことが語られる。「なんでもよかった」きっかけでチョイスするのがパンというのは、かなり難度が高い気がするが、おそらく思いがけない才能があったのだろう。

一方、栄養専門学校では、炊き出しで味の濃淡が不安定になる理由を考える。森川、沙智(山本舞香)、佳純(平祐奈)が調べてくれたことで、その理由が探り当てられ、結は炊き出し隊長としてメニューを考案。ワカメおにぎりとサバツナけんちん汁に決まる。

なるほど、非常食によく用いられるアルファ化米にワカメごはんがあるのは、「味変」の意味が大きいと思っていたが、炭水化物ばかりになる避難所生活の便秘対策にワカメが有効だったからなのか。その一方で、外から届くのを待つのではなく、在庫の食品でなんとかまわす知恵として、豚汁ならぬ缶詰を使ったサバツナけんちん汁というのは良い案に思ったが、サバはアレルギーを持つ人も多く、不特定多数が避難している場の炊き出しには不適という指摘もSNSで見られた。なるほど、これも勉強になる。

結は翌日の防災訓練用の炊き出し準備を終え、防災訓練の全体打ち合わせにも参加するよう促され、炊き出しの人数が足りないので手を貸してくれる人が欲しいと言う。そこで聖人がナベさんの名前を出すと、美佐江は難色を示すが、当日、ナベさんがやって来た。実は美佐江が声をかけていたのだった。

そんなナベさんに、美佐江の娘・菜摘(田畑志真)は震災当時、ナベさんが持って来たワカメに救われたと礼を言う。その光景を少し離れた場所から見ていた歩が、これまたとってつけたように言う。

「結ってさあ、名前の通りだよね。人と人とを結びつける」

そこからまた1万円のシャンプーのくだりが入るが、結局、「ズルできないクソ真面目な聖人が家族に対してだけは平気でズルをする。それがすぐバレる。家族ってそんなズルも笑い合える存在だよね」というメッセージなのかもしれない。

それにしても、子どもたちが汗を滲ませながら役所の話を聞いているときに提供される、熱々のワカメおにぎりと、熱々のサバツナけんちん汁のありがたくなさときたら。結も商店街の人たちも、震災時に真冬の寒い避難所で暖かいモノが欲しかった自身の記憶や思いに縛られ過ぎて、目の前の子どもたちのリアルな気持ちを置いてけぼりにしていないか。

また、被災による心の復興のスピードもあり方も人それぞれであることを認め合うのであれば、毎日娘の墓参りをし続けるナベさんのこともやっぱり肯定したい。

いろいろ思うところはあったが、今週も輝いていたのは、すっかり天然キャラになっている翔也(佐野勇斗)。スランプに陥ったというが、むしろ活躍したのは高校野球の地方予選で「ヨン様」呼びされ、チヤホヤされたわずかな時期くらい。思い出される姿といえば、スタミナ不足を指摘されたり、結の弁当食い過ぎで太って体のキレが悪くなったり、アスリート向けを意識しない結の献立によって空腹を強いられ、しょんぼりしていたりという悲しい姿がほとんどだ。にもかかわらず、スランプと称する自己肯定感の高さも、たまたま投げた球が変化しただけで「変化球」への挑戦を閃いたかのような顔をする素直さも、嫌いじゃない。なんなら本作で一番じわじわくる、愛すべき存在かもしれない。

ともあれ、震災や栄養について丁寧に取材をしている「情報」が盛り込まれる一方、余白の多い脚本・演出のユルさおおらかさが際立つ週だった。

文/田幸和歌子

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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