大切なお子さんが「元気がない」「いつも不安そう」「何を考えているかわからない」...親の目にそう映っているならば、必ず原因があります。精神科医でありながら7年間うつを患い、そして克服した"うつぬけ医師"宮島賢也さんによる、子供の「心の不調」を改善するためのシンプルな考え方をお伝えします。子どもをストレスに負けない人間に育てるための親の習慣、身に付けませんか?
※この記事は『心が折れない子を育てる親の習慣』(宮島賢也/KADOKAWA)からの抜粋です。
前の記事「自分で決められる人になるために。子どもへのアドバイスは少なめに/うつぬけ医師の子育て論(5) 」はこちら。
「満月理論」とは?
僕が、クリニックに来られた方にまずお伝えしている理論があります。
「満月理論」です。
これは、僕のクリニックにおける治療の土台としているメソッドの礎となる理論です。
クリニックのメソッド(佐藤メソッド)は、薬を使わずに短期間で、うつをはじめとする心の不調を寛解(かんかい)させる精神療法です。
このメソッドによるうつの寛解率は、90日以内で90.9%。
また、精神科の教科書では60%、再発すると70〜80%、90%、100%と上がっていくうつの再発率も、2.3%という驚くべき低さとなっています。
うつ病と診断されると、通常はすぐに薬を処方されます。
薬は対症療法ですが、僕のクリニックのメソッドは、今の心の状態の根本原因にアプローチするので、薬を減らせたり、薬を手放せたりするのです。
これからお伝えする「満月理論」は、うつなど心の不調に苦しむ人だけのものではありません。むしろ、今子育てに悩んでいる親御さんや、家族の問題を抱えている人にこそ知っておいてほしい理論です。
「三日月」という月は存在しない
夜空を見上げると、日によっては三日月が浮かんでいます。
でも、実は「三日月」という形をした月はありません。月はもともと「まん丸」の満月。
それは誰でも知っていますね。
地球上からだと、太陽の光の反射具合で、常に「まん丸」には見えないだけなのです。
満月が勝手に形を変えて三日月になるわけではなく、私たちの目にそのように見えるだけ。
つまり、三日月に見えるのは、人間の認識の世界の中だけのことなのです。
月はもともとまん丸であり、「完全で完璧な存在」なのです。
それを、そっくりそのまま人間に置き換えてみましょう。
たとえばあなたの身近に、大好きなAさん、そしてあまり気が合わないBさんがいたとします。私たちは心の中で「Aさんはこんな人(だから好き)」「Bさんはこんな人(だから嫌い)」と認識しています。でもそれは、勝手にあなたが認識しているにすぎません。
あなたの認識の中でのAさん、Bさんにすぎず、本当のAさん、Bさんではないのです。
あなたが好きであろうが嫌いであろうが、どんな人ももともと、まん丸の完全で完璧な100点満点の人間。そのような思いで人に接していくと、人間関係の悩みは、実は簡単に消えてしまうのです。
ポイントは、「この人は満月(完璧)だ」と頭で考えるのではなく、完璧であるという「前提」からスタートすること。
これが難しいと言われるのですが、「三日月なんてない、もともと満月」だということは「前提」として理解できますよね。人間もそのように捉えるわけです。
子どもに対しても、「満月」という前提で接すると、まったく接し方が違ってくるから不思議です。世の中の親御さんのほとんどは、お子さんを「三日月」だと思っています。
注意したり、指示命令したりするのは、子どもをそもそも三日月と思っているからで、それが子どもへの愛情から発せられることだからこそ、厄介なのです。
親としての気持ちから、「なんとか欠けている部分を補ってあげよう」「ここの部分を足してあげよう」とする。でも、そうして付け足してできた丸は、きれいな丸にはなりませんし、そもそも付け足す必要なんてないのです。
もともとが、きれいなまん丸なのですから。
「何かが足りない」と思うのは、あくまで親の認識です。
勉強が不得意な子どもに対して、「この子は頭が悪いから、もっと勉強させなくては」と思うのは、子どもを三日月と捉えているのです。
スポーツが得意だったり、絵が上手だったり、子どもにはほかにもさまざまな能力があります。学校の教科にはない才能を持っている子どもはたくさんいるのです。
今の学校の教育は、同じことを学ばせて特定の(主に勉強の)能力を比べ、競争させているのが実情です。決められた知識を頭の中に入れ、たくさん詰め込めれば「頭がいい」とされますし、それが苦手な子どもは自信をなくす一方です。
本来は、どの子どもも、もともと満月。
大げさではなく、一人一人が天才なのです。
日頃から「あなたはすばらしいんだよ」ということを「教える」のではなく、それを「引き出す」ことが本当の教育なのではないかと僕は思います。