自分の「パワー」を使うことも必要!? パワハラをなくすマネジメント術

身近な社会問題として注目を集める、パワハラ=パワーハラスメント。今や労使紛争のトップになったパワハラは、どうすればなくせるのでしょうか。カギとなるのは「命令する上司」から「動機付ける上司」への転換。10万人以上に講演・指導を行ってきた和田隆さんの『パワハラをなくす教科書』(方丈社)から、これだけは知っておきたい「パワハラをなくす方法」について、連載形式でお届けします。

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パワーを建設的に使う

職務権限、経験、正当性、専門性など、職場にはさまざまなパワーがあります。自分の持っているそのパワーを、不当行為として「出力」したとき、パワハラとなります。

現在、30種類以上のハラスメントがあると言われています。これらのハラスメントに「パワー」がくっつくと「パワハラ」となります。セクハラやマタハラの中には、形を変えたパワハラであるケースも少なくありません。

セクハラには「環境型セクハラ」と「対価型セクハラ」の2種類があります。環境型セクハラは性的な言動により相手や職場の環境を悪化させるというものです。例えば、性的な冗談や容姿などについてのうわさ話、性的なポスターや雑誌などを置いたりして、不快感を与える行為のことを言います。

一方、対価型セクハラは、自分の優位性を使って行うセクハラです。自分の性的な言動に対し相手が拒否を示したとき、自分の立場や権限を使い労働条件に不利益を与える。

例えば、男性上司が女性の部下を食事に誘い、部下は「二人きりでは行けません」と断ったとします。上司はバカにされたように思い、女性部下に配置転換を命じる、といったケースが対価型セクハラです。

環境型セクハラは、職場での立場とは無関係で起こりますが、対価型セクハラは仕事での優位性(パワー)を使っているのでパワハラ型のセクハラとなります。

マタハラにも、パワハラ型マタハラというのがあります。「休むような人間はいらない」と言ったり、時短勤務をする部下に仕事をさせなかったり。妊娠、出産、育児をする部下に対する嫌がらせで、上司の立場を利用したものはパワハラの一種です。

その他にも、フェイスブックなどSNS上で、友だち申請を強要したり、「いいね」などの反応を求めるソーシャルハラスメント、「ソーハラ」。これも上司と部下の関係を持ち込むと、パワハラになりやすくなります。

また、1章で判例をご紹介しましたが、アルコールを強要するアルコールハラスメント、「アルハラ」も不当行為であり、上司が行うとパワハラ認定されます。

40代、50代の上司が若かったころには、「一気」のかけ声とともにお酒を煽り、「吐けば飲める」なんてことが当たり前に言われていました。しかし、今は完全にアウトです。

上司が持つパワーは使い方をまちがえるとさまざまなハラスメントと合体し、人を追いこむということです。

しかし、自分の持っているパワーをマネジメントに使えば、それは適切な指導になります。パワーによって、職場に秩序が生まれ、部下を動機付けることができる。秩序を形成する、動機付けるという目的に対して、パワーマネジメントは適切な手段です。

また、あなたの持っているパワーをコミュニケーションに使えば、それは部下との関係を深めるものとなります。適切に発信し、部下からの問いに応答する。部下の意見に疑問があったとしてもしっかり聴いてあげる。「何か力になれることある?」といったパワーを使った声掛けは、部下に気付きと安心感を与えます。

セクハラの場合、セクシュアルな行為はいかなる場合も許されません。しかし、パワハラの場合、上司の「パワー」自体は否定されるものではありません。これがセクハラとパワハラの大きな違いになります。

パワーを人を壊すために使うのか、人を活かすために使うのか。パワーコミュニケーションとパワーマネジメントは必要であり、パワー自体を否定してはいけないのです。しかし、「パワハラをしてはいけない」と意識しすぎて、萎縮してしまう管理職も少なくありません。パワハラはないけれど、マネジメントもコミュニケーションもない。そんな職場が増えていて、今、問題になっています。

パワーマネジメントができなければ、秩序がなくなります。秩序がない中で多様性は実現しません。多様性があって秩序がない職場は、働きにくくて仕方ありません。皆が自分勝手に「自分らしさ」を主張し、ルールを守らなくなったら、そこはもう、働く場所ではなくなってしまいます。

パワー全体を否定してしまうと、パワーコミュニケーションとパワーマネジメントができなくなるので、秩序も相談しやすい関係もなくなる。

日頃から、パワーの出力の仕方が不当行為のほうにいかないように明確な意識を持ち、パワーの出力の仕方を学んでいく。パワーマネジメント、パワーコミュニケーションの出力回路を鍛えるのです。

パワーハラスメントのパワーをすべてなくそうとすると、その人の強みも消えてしまいます。パワハラをしてしまう人は、成果を上げ、結果を残している人が少なくありません。そういう人は必ず、何かしら強みをもっています。

恫喝型のパワハラをする人は、仕事に熱い情熱を持っていること多いものです。いけないのは、怒りの感情をぶつけることです。しかし、「怒らないように」「怒らないように」と仕事への情熱自体を消してしまうと、その人の強みも消えてしまいます。理詰め型の人も同様です。パワーを単純に抑えると強みも消える。「あの人、元気なくなったね」で終わってしまう。パワハラはしていないけれど、元気もない。

残しておく部分と活かす部分、改める部分を分けて考えることが大切です。そのパワーが相手を動機付けたのであれば、パワーは全開でいきましょう。自尊心を傷つけたとなったら、そのパワーは出力停止。そんなコントロールが必要になるわけです。パワーも分解して考えていきましょう。

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自分の「パワー」を使うことも必要!? パワハラをなくすマネジメント術 00191002.jpgパワハラがなぜ生まれるのか。その理由を企業の体質や構造から解明し、改善方法が解説されています。管理職となったあなたが抱えている問題を解決するヒントがまとめられています

 

和田 隆(わだ・たかし)

ハラスメント防止コンサルタント、1級キャリアコンサルティング技能士、シニア産業カウンセラー。メンタルプラス株式会社代表取締役、ウェルリンク株式会社シニアコンサルタント。大学卒業後、旅行会社、スポーツクラブ運営会社で主に商品企画業務に従事。その後、職場のストレスが社会問題化する流れの中、心の健康を大切にする支援をライフワークとするため、メンタルヘルスケアに取り組む。現在、カウンセラー、コンサルタントをする傍ら、ハラスメント、メンタルヘルス、睡眠改善、コミュニケーション等をテーマに、民間企業、官公庁、教育機関等で、講演・指導を行っている。受講者は10万人を超える。

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『パワハラをなくす教科書』

(和田 隆/方丈社)

パワハラを生む企業の体質と構造を解き明かし、社員のモチベーションを活性化することで、健康企業へと導く方法を徹底解説します。部下への指導で悩む管理職のみなさんが抱えている問題を解決するヒントが詰まった一冊です。

※この記事は『パワハラをなくす教科書』(和田 隆/方丈社)からの抜粋です。

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