「責任を取れ」と迫る客からは物理的な距離を取る。ミスを理由に不当な要求をするカスハラへの対策

物理的な距離をとるべし

とあるスーパーのレジでの光景だ。白髪混じりの髪を綺麗に撫でつけ、品のいいスーツを着て銀の腕時計をつけた男性がレジ会計の前に立っている。一見すると年収高めの中高年といったところだ。が、突然ドンッとカウンターに拳を叩きつけ、目を剝き鬼の形相でレジを打つ女性に大声をあげる。

「一体どうなってんだ、この店はあっ!」

泣きだしそうな顔で「申し訳ございません、すぐに責任者を」と女性は頭を下げるが、男性は鼻息荒く腕を振り上げた。他の客も恐怖で縮こまる。

「まずは土下座だろうが!」

ガンッとカウンターを蹴りつけ、すかさず携帯電話を取り出し、女性の鼻先に振りかざす。

「10万円出せ! ネットに書くぞ!」

「お客様! 落ち着いてください!」

「おい! バカにしてんのか!」

怒号とカウンターを蹴りつける音が店内に響き渡る。

この緊迫感あふれるカスハラシーンは、UAゼンセンが制作した動画の1つ「悪質クレーム対策★『悪質クレームを、許さない』by UAゼンセン」で描かれているものだ。動画では「強要罪」「威力業務妨害罪」「暴行罪」という文字に続き、女性が冷静な声で「お客様、お会計はこちらになります」と示す先に、「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」の文字。

怒鳴って威嚇し、有無を言わせず要求をのませようとするのは「影響・強制」としての攻撃タイプだ。現場でこんなカスハラと直面したら、なによりも先に加害者との距離をとるべきだ。物理的距離があることは自分を守るだけでなく、加害者側にとっても攻めきれない状況をつくることができる。

動物は優位性を誇示するために物理的距離を奪うマウンティング行為を見せるが、喧嘩腰な客から売られた勝負やマウンティングプレイには「物理的・精神的に付き合わない」という認識を忘れず、距離をとる。そして「しばらくお待ちいただけますか」と声をかけてから、他の人のサポートを借り、粛々と妥当な対応を続けることだ。

また、自分が優位にあると思って攻撃してくる加害者の場合、その優位性を揺るがす相手の登場も有効だ。女性従業員を狙う男性客ならば男性の従業員を、バイトや若いスタッフなど立場の弱い人を狙う客ならば裁量権を持つ従業員や法的措置を決定できる人物の登場で加害者側も気がそがれるか、狙い通りにならないとわかって撤退するだろう。

 

桐生正幸

東洋大学社会学部長、社会心理学科教授。山形県生まれ。文教大学人間科学部人間科学科心理学専修。博士(学術) 。山形県警察の科学捜査研究所 (科捜研)で犯罪者プロファイリングに携わる。その後、関西国際大学教授、同大防犯・防災研究所長を経て、現職。日本犯罪心理学会常任理事。日本心理学会代議員。日本カスタマーハラスメント対応協会理事。著書に『悪いヤツらは何を考えているのか ゼロからわかる犯罪心理学入門』(SBビジュアル新書)など。

※本記事は桐生正幸著の書籍『カスハラの犯罪心理学』(集英社インターナショナル)から一部抜粋・編集しました。
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