「責任を取れ」と迫る客からは物理的な距離を取る。ミスを理由に不当な要求をするカスハラへの対策

『カスハラの犯罪心理学』 (桐生正幸/集英社インターナショナル)第7回【全7回】

従業員を高圧的に攻撃し苦しめる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」。コロナ禍を経てますます増加したカスハラから従業員を守るため、企業は早急な対策を求められています。犯罪心理学者の桐生正幸氏は、著書『カスハラの犯罪心理学』(集英社インターナショナル)で、豊富な調査実績をもとにカスハラが起こる理由とその対策を提案。いまや社会問題化しているカスハラの事例を通し、従業員や自身の心を守る方法、そして「客」としての自分自身を見つめなおしてみませんか。

※本記事は桐生正幸著の書籍『カスハラの犯罪心理学』(集英社インターナショナル)から一部抜粋・編集しました。※この記事には、一部不快感を伴う描写が含まれます。ご了承の上、お読みください。

「責任を取れ」と迫る客からは物理的な距離を取る。ミスを理由に不当な要求をするカスハラへの対策 08_kasuhara_eye.jpg
※写真はイメージです(画像提供:ピクスタ)

「責任取ってくれるよね?」への戦法

カスハラは、こちらの想定をはるかに超えてくるケースも多い。

加害者の4タイプの攻撃性のなかで「制裁・報復」としての攻撃性にあたるタイプは、「自分が正義」「責任は相手にある」と信じる傾向が強い。『コールセンターもしもし日記』(フォレスト出版)の著者で、コールセンターに勤めた経験を持つ吉川さんもこのタイプのカスハラの体験を著書で紹介している[吉川 2022]

そのクレーマーは、吉川さんのミスを誘って間違った案内をさせ、後日言いがかりをつけてきた。吉川さんは事実を確認し、揚げ足取りだとわかっていても真摯に謝罪している。

「間違った案内をしてしまい、申し訳ございませんでした」

「そうだよね。間違ったこと言ったよね。認めるよね。責任取ってもらえるよね?」

カスハラの刑事事件でも多数見られた「責任取ってもらえるよね」という言葉。不当な要求をする加害者たちの常套句だ。真面目に働く人は自分にミスがあると、つい「自分のせいだ」と思いこんでしまう。吉川さんも、カスハラ常習犯と思しき加害者の罠に落ちそうになる。

「私にできることがあればやらせていただきますが、どのようなことでしょうか?」

「どのようなことでしょうかって、自分で考えてわからないの? あんたバカじゃないの?」

言葉に詰まってしまった吉川さんに上司を出せと客は息巻く。ところが、管理者が代わった途端、吉川さんに対する態度とは一転し、形勢は逆転する。

「責任とはどのようなことでしょうか? 間違った案内をしたことについてはお詫びします。ただ、どのような責任でしょうか。金銭的なことでしたらお断りします」

呆気なくカスハラ加害者は撃退されて、電話はすぐに切れたという。同じように、加害者が相手の落ち度を理由に不当な要求を正当化しようとするケースは、土下座事件でも見られた。対面で直に加害者と立ち向かわねばならない応対者の場合は、相手との物理的距離を保つこと、迷わずに状況を周りに伝えてサポートを求める行動を取ることも十分に意識してほしい。

とくに「制裁・報復」タイプの攻撃は、融通性のなさや偏った信念、執拗さが人格特性として見られるので、腰を低くして懇切丁寧に説明をしても通じないどころか、かえって悪化させかねない。理論整然と説得を試みても逆ギレされたり、逆恨みから攻撃が過激化するおそれもある。「その件につきましては、法律に詳しい者に相談いたします」など、保留によって状況を一度打ち切る逃げの戦法も有用だ。

 

桐生正幸

東洋大学社会学部長、社会心理学科教授。山形県生まれ。文教大学人間科学部人間科学科心理学専修。博士(学術) 。山形県警察の科学捜査研究所 (科捜研)で犯罪者プロファイリングに携わる。その後、関西国際大学教授、同大防犯・防災研究所長を経て、現職。日本犯罪心理学会常任理事。日本心理学会代議員。日本カスタマーハラスメント対応協会理事。著書に『悪いヤツらは何を考えているのか ゼロからわかる犯罪心理学入門』(SBビジュアル新書)など。

※本記事は桐生正幸著の書籍『カスハラの犯罪心理学』(集英社インターナショナル)から一部抜粋・編集しました。
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