店員に土下座させた写真をSNSに投稿し「強要罪」に。カスハラ加害者が逮捕された事例とその背景事情

カスハラの刑事事件

土下座させて写真を撮り、さらなる謝罪を要求する。反社会的勢力を思わせるやり口だが、これはカスハラの事例である。

幸いにも、この被害に遭った2人は加害者宅へ訪問することなく通報した。だが、もし被害届を出さず、女性宅を訪問していればどうなっていただろう? 何時間も軟禁され、さらなる要求に直面していたはずだ。

タオルケット1枚の穴1つで、従業員を土下座させ、さらにはその写真を撮ってインターネット上で拡散させる。その非道さに震え上がった読者もいれば、驚いた読者もいるだろう。SNS上での話題性を狙ったかは定かではないが、この女性が罪の意識もなくSNSに投稿したのは「正しい自分に世論も味方する」という安易な思いがあったのだろうか。

ちなみに、こうしたカスハラ行為は「強要罪(刑法第223条第1項)」にあたり、逮捕される。これは、次のような場合に成立する罪状だ。

①生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨を告知して脅迫した場合
②暴行を用いて人に義務のないことをおこなわせ、または権利の行使を妨害した場合
③親族に対して同じことをして脅迫・妨害した場合

罰則には罰金刑はなく、3年以下の懲役が課される。「2年以下の懲役又は30万円以下の罰金」が罰則となっている脅迫罪と比べると、強要の方が重い罪なのがわかる。金を要求したが得られなかった「未遂」のケースであっても、罰せられる可能性は十分にある。

続く土下座事件

この事件のあとにも、よく似た事件が多発している。2014年9月、場所は大阪府茨木市のコンビニだった。

ことの発端は、1人の女性がコンビニの店長らとの間に起こしたトラブルだった。トラブルを知った知人の男性2名がその後に来店。店長らに土下座をさせ、女性の娘がその様子を撮影し、動画をSNSに投稿した。オーナー、エリアマネージャー、エリアの営業所長まで呼びつけられる事態となった。

「手ぶらで行きまんのか、オタク、謝りに行くとき」

男性らは反社会的な言葉を口にし、2万6700円相当のたばこ6カートンを脅し取った。この2人はカスハラの常習者で、過去にも似たような手口を繰り返していたことも、あとで明らかになっている。うち1人は自身も営業職として働いていた際、クレーム客に菓子折りを差し出し、土下座をして謝ってきた。そのため、「謝る際には土下座をし、財物を渡すのが普通だと思っていた」という。

ところが、このカスハラ事件はここで終わらない。女性は、別の知人男性にも連絡をして、トラブルについて話し、土下座動画を共有した。この男性も過去にクレームで現金を受け取った経験があったことから、コンビニの営業所長に7度にわたって電話をかけた。

「たばこと携帯代では話になりませんわ」

「誠意っていうのはお金のことですわ」

「信用ガタ落ちになりますよ」

そんな脅し文句を繰り返し、現金を脅し取ろうとしたのだ。

結果、この事件では男性3人、女性1人の全員が逮捕されることになった。女性の娘は少年院に送致された[産経ニュース 2014年12月24日]

 

桐生正幸

東洋大学社会学部長、社会心理学科教授。山形県生まれ。文教大学人間科学部人間科学科心理学専修。博士(学術) 。山形県警察の科学捜査研究所 (科捜研)で犯罪者プロファイリングに携わる。その後、関西国際大学教授、同大防犯・防災研究所長を経て、現職。日本犯罪心理学会常任理事。日本心理学会代議員。日本カスタマーハラスメント対応協会理事。著書に『悪いヤツらは何を考えているのか ゼロからわかる犯罪心理学入門』(SBビジュアル新書)など。

※本記事は桐生正幸著の書籍『カスハラの犯罪心理学』(集英社インターナショナル)から一部抜粋・編集しました。
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