離婚後のトラブルを避ける
――離婚にまつわる法改正はどんどん進んでいますね。現在も、父母の両方に親権が認められる「共同親権」という制度が見直されています。
森元:まさにホットな話題ですね。導入となれば、子どもが両親に愛される環境を維持しやすく、面会や養育費が立ち消えになる...という現在ありがちなパターンを減らせるかもしれません。一方で、DVやモラハラが続くのではないか、という懸念もあります。いずれにせよ、「親権」は親の権利というより子を守るための義務や責任であり、離婚しても子を幸せにする責任が両方の親にあることや、子どもにとっても両方の親との健全な関係を続けられるのが理想であることを、いままで以上に意識することになるでしょう。
――やはり、離婚が子どもに与える影響は大きいですよね。なかには子どもが成人するまで離婚のタイミングを延ばす人もいます。
森元:そうですね。ただ、子どもの特性によっては、DVやモラハラによって取り返しがつかないような損傷を受けることがあります。子どものことを一番わかっている親が、ちゃんと子どものことを考えているか、自分の気持ちばかりを優先していないかを自答しつつ、よくよく考えたのなら、自分を信じて離婚を選択するのも1つの方法だと思います。
――20年近く離婚の問題に携わっている森元先生は、こうして法律が変わっていく時代の流れをどのように見ていますか?
森元:経済的に弱い立場の子どもや女性を守るために頑張ってくれているのかなとは思います。ただ、実際の社会ではやっぱり、離婚して小さな子どもを抱えるお母さんは、なかなかいい条件で就職しにくいですし、職場でのパワハラにも遭いやすい。DVも、被害者を守る法律はあるものの、追いかけられるんじゃないかという恐怖にずっと怯えながら生活しなきゃいけない。法律ではどうにもできないことかもしれませんが、肝心なところに手の届かない歯痒さはあります。
――離婚してからもトラブルに巻き込まれる可能性があると...。
森元:そうですね。離婚した女性が足元を見られて厳しい条件で働かせられたり、数は多くありませんが、どうやって調べたのか、DVの夫に新しい住所を知られてしまったり...。実際、離婚した後にそういう相談を受けることがあります。法的手続きが取れそうならお手伝いしますが、ギリギリのグレーゾーンも多いので、ほとんど聞いてあげることしかできません。
――払われるべき慰謝料や養育費が途中で止まってしまった...というトラブルもあるようですね。
森元:統計上では多いようですが、弁護士や裁判所が絡むケースでは、きちんと支払われていることが多いです。私自身、終わった案件でも、途中で払われなくなったと連絡をもらえれば、相手方の弁護士に連絡を取ります。そうすると相手は「まだ弁護士がついているのか」という気分になり、支払ってくれることがあります。家庭裁判所にも、相手に手紙を送って申し立てる「履行勧告」という制度がありますし、本当に払われなければ差し押さえが強制執行されます。慰謝料や養育費が払われなくなるのは、自分たちの協議で離婚を決めた方や、弁護士や裁判所を通していない方の確率が高いのかなと。ただ、それは会社員のケース。自営業の方は難しい場合があるのと、相手が海外に行ってしまうと、約束事の書面が残されていても手が届きません。
――離婚の手続きだけでなく、離婚後のライフプランに目を向けることも大切だなと感じました。
森元:結婚生活もつらいと思いますが、離婚してからもつらいことはあります。正直、弁護士はそこまで踏み込めず、ご自身でカウンセラーや友人、親御さんに相談していただくのが良いかなと。弁護士がお手伝いできるのは、いまの時点で離婚請求が認められるかどうか、慰謝料が取れるかどうか、どんな証拠が必要か、などを見通してお伝えし、選んでもらうことです。やみくもではなく、離婚に関する知識を身につけていただき、いい意味で将来を選択するための「前向き離婚」を検討していただけたらと思います。