相続に関する民法の規定が約40年ぶりに改正され、2019年1月から順次施行されまています。配偶者の権利の拡大や、自筆証書遺言のパソコン利用、また義父母の介護の評価する「特別の寄与」など...この改正で押さえておきたい「7つのポイント」について、弁護士の武内優宏先生に教えていただきました。
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その1 配偶者の住む場所を守る「配偶者居住権」
2020年4月に施行される規定です。父親が亡くなり、同居している長男が母親を追い出す――。そんな事態を防いでくれる改正です。父親が亡くなったとき、税金のことだけを考えれば、同居している長男が自宅を相続した方が有利になるケースが少なくありませんが、弁護士の武内優宏先生はこう指摘します。
「相続後に長男の妻が『自宅を売りたい』と言い出した場合、母親には対抗手段がなく、住む場所を失いかねないのです」「配偶者居住権」は、自宅の権利を居住権と所有権に分けて、母親が居住権を相続すれば、生涯自宅に住む権利が得られます。自宅を丸ごと相続するよりも居住権の方が評価額は低くなるので、ほかに預貯金を相続することも可能です。
仮に母親が老人ホームなどに入居することになれば、自宅を貸して賃貸料を受け取って、老人ホームの利用料に充てることもできます。
その2 「自筆証書遺言」が書きやすくなった
2019年1月に施行されるようになった規定です。自筆証書遺言は、保証人も必要なく、費用がかからないのがメリット。しかし、全て自筆が条件だったので高齢になると作成が厳しい面も。特に財産目録は膨大な量になることもあるため、遺言を書くことをためらう原因にもなっていました。
今回の法改正では、財産目録の部分はパソコンなどで作成が可能に。「妻や子どもが財産目録を用意して、遺言を促すことが可能になったのは大きいですね」(武内先生)。
特に子どものいない夫婦は、夫が亡くなったとき遺言がないと、夫の兄弟姉妹などが相続人になり、遺産分割のため、自宅を売却せざるを得ないこともあります。
その3 義父母の介護を評価する「特別の寄与」
2019年7月に施行。同居している長男の妻が義父母の介護をする――。よくあるケースですが、長男の妻は相続人ではないため、貢献が報われないことも。相続の際に長男の相続分を増やす方法はありましたが、長男が先に亡くなっていた場合、妻は何も受け取れませんでした。法改正後は、義父母の介護などで貢献した妻は相続人に金銭を請求することが可能になりました。とはいえ、相続が発生してから権利を主張するのは手間がかかります。
「特別の寄与が認められたことで交渉がしやすくなったのも事実です。もし、義父母の介護をすることになった場合には、その時点で遺言を書いてもらい対価をもらえるようにした方がいいですね」(武内先生)
その方が義父母も心置きなく面倒を見てもらえるはずです。
その4 預金から葬式代などを引き出しやすくなる
2019年7月から施行。相続が発生すると、亡くなった人の預金口座は凍結され、遺産分割協議が整うまで引き出せなくなります。一方で葬式代などは現金払いが一般的なので誰かが立て替えなければならず、お金の工面が大変な面がありました。一定の金額までであれば、仮払いが受けられるようになりました。
「ただ、仮払いを受けるには相続人が誰なのか確定する必要があるので手間はかかります」(武内先生)
であれば、配偶者などを受取人とした生命保険に加入しておいた方が効率的です。生命保険は遺産分割の対象とならないため、すぐに受け取れます。これまでは手持ち現金の少ない相続人は、他の相続人に現金を借りるケースもあり、遺産分割の交渉で不利になることもありましたが、それも解消されます。
その5 結婚20年以上なら配偶者へ自宅を贈与可能
2019年7月に施行。結婚20年以上の夫婦であれば、生前贈与または遺贈(相続時に贈与)された自宅は、原則として遺産分割の対象から外れました。
その6 使い込みも遺産にカウントする「不当利得」
2019年7月に施行。相続が発生した後、相続人がこっそり預金を引き出してしまえば、その分は遺産分割の対象から外れてしまっていました。今後は、使い込んだ相続人の承諾なく遺産分割の対象とすることができるようになり、公平な遺産分割が期待できます。
その7 遺留分を侵害されたら金銭を請求できる
2019年7月に施行。法定相続人に保証された最低限の取り分(遺留分)が遺言などで侵害された場合の精算方法が変更されました。今後は対象財産が不動産でも金銭の支払いを請求できます。
取材・文/向山 勇 イラスト/いなばゆみ