DVやハラスメント、性犯罪に娘のいじめ...「女性が巻き込まれやすいトラブル」は数多くあります。でも、そうした悩みを解決したくても、「誰かに相談したら逆に悪化するかも...」とどうしていいかわからない人も多いと言います。そこで、弁護士の上谷さくらさんと岸本学さんの著書『おとめ六法』(KADOKAWA)より、女性の味方になってくれる「法律」についてご紹介。ぜひ、ご自身やお子さんがトラブルの参考にしてください。
【事例①】
このイラストかわいい!私が描いたってことにしてSNSに投稿しよう。
【ANSWER】
著作権侵害にあたる可能性が高いです。イラストを自分が描いたことにして、みんなに見せるためにパソコンにダウンロードしていたら、その時点で、複製権(著作権法第21条)の侵害になります。著作権、出版権、著作隣接権の侵害には、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金(著作権法第119条第1項)、著作者人格権、実演家人格権の侵害などは、5年以下の懲役または500万円以下の罰金などが定められています(著作権法第119条第2項)。
著作権はなんのためにある?
インターネットやSNSが普及して、たくさんの作品に触れることができるようになりました。
しかし、誰かが作った作品には「著作権」があり、それを無断で使うことは禁止されています。
そもそも著作権とは、なんのためにあるのでしょう?
わたしたちは生活の中で、小説や漫画を読んだり、音楽を聴いたり、絵画や彫刻のような美術作品を鑑賞したり、映画やドラマ、アニメを楽しんだりしています。
これらの作品は、作った人が、自分の考えや気持ちを自分で工夫して表現したものです。
この作品のことを「著作物」、著作物を作った人を「著作者」、そして法律によって著作者に与えられる権利を「著作権」といいます。
著作権は、小説や論文、音楽、映画、写真だけでなく、ダンス、建築、地図や模型などにも与えられています。
作品には、作った人のオリジナルな発想や表現、またそれをかたちにするための努力が込められています。
オリジナルを作ったその個性、それを表現するまでの努力は守られるべきものとして考えられているのです。
作った人は、著作権制度によって、作品を利用した人から「使用料」をもらうことができます。
そのお金をもとに、作った人は、また新しい著作物を作ることができます。
その結果、いっそう文化が豊かになるという、大きなしくみになっているのです。
ポイント
著作権は作品が作られたと同時に自動的に生まれます。
要件を満たせば、登録や申請の手続きは一切必要なく、また早い者勝ちでもなく、作った人が持てる権利です。
なお、著作権には「保護期間」があり、一定の期間が経過すると消滅することになっています。
そのため、「枕草子」「源氏物語」といった文学作品には著作権はありません。
ただし、その現代語訳については、訳者の個性が表れると考えられ、著作権が発生します。
【事例②】
自分が描いてSNSに投稿した漫画。その数日後に、自分のとそっくりな漫画が公開されていた。「盗作じゃないか」と問い合わせたら、「たまたま似てしまっただけだ」と言われた。
【ANSWER】
よく似ていたとしても、それが「たまたま」ということはありえます。その場合は「依拠性」がないため、著作権侵害は成立しません。もし訴訟をする場合には、「相手が自分の作品を参考にして作った」ということを、訴える側が証明する必要があります。もし、相手が自分の作品を参考にして作っていた場合は、著作権侵害となります。
他人の作った作品を参考にして作品を作ること自体が、著作権侵害になるわけではありません。
どんな人も、さまざまな著作物の影響を受けて成長しています。
意識せずとも、なんらかの作品を参考にしていることはよくあるからです。
著作権を侵害しているかどうかは、次の3つの基準によって判断されます。
① 既存の作品が著作物であり、著作権があるかどうか(著作物性)
② 新しく作られた作品が、既存の作品を参考にして作られたものか(依拠性)
③ 新しく作られた作品が、既存の作品によく似ているかどうか(類似性)
前提として、作品のアイデアそのものは著作権では保護されません。
たとえば「ねずみをモチーフにしたキャラクターを作る」という場合、「ねずみをモチーフにしたキャラクター」自体はアイデアのため、著作権で保護されません。
また、アイデアが似ていても、③の類似性が認められなければ保護対象になりません。
③の類似性の定義については、条文で明示されていませんが、これまでのさまざまな裁判の結果から「表現上の本質的な特徴」が同じかどうかで判断されます。
つまり、「ありふれた表現にすぎない」と判断された場合は、似ていても著作権侵害とは認められない可能性が高いでしょう。
【事例③】
好きなアニメの二次創作漫画を描くのが趣味。同じアニメのファンの仲間と見せ合っている。
【ANSWER】
著作権者の許可を得ていない二次創作は、実はすべて違法です。「仲間内の同人誌ならよい」「無料で配布するのはセーフ」ということはありません。二次創作は、原作者が「黙認」しているという状況です。
著作権を侵害された原作者は、民事上の損害賠償を請求することができます。もし二次創作を作った人が、その作品を販売して利益を得ていれば、その利益の額が損害と考えられます。利益を得ていなくても、原作者は、著作物の内容等を無断で変更されない権利(同一性保持権)の侵害を理由に、慰謝料を請求することも可能です。さらに、その二次創作活動の中止を求めることができるほか、創作物をすべて廃棄するよう求めることもできます。
自分の作品が誰かに無断で利用されていた!
まずは本人に連絡して取り下げてもらうようにしましょう。
「使ってもらうのはかまわないけど、自分の作品だとわかるようにしてほしい」「使ってもらってかまわないけど、お金を払ってほしい」という場合は、対応してもらうよう伝えます。
それでも対応してもらえない場合は、法的措置を検討します。
逆に、誰かの作品を利用したい場合、販売されているものであれば、きちんと購入しましょう。
違法にアップロードされているものもありますが、違法と知りながら、これをダウンロードして利用した人は、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金となります。
解説
著作権には、さまざまな関連する権利があります。
コピーする権利は「複製権」。
公開する権利として「上映権」「上演・演奏権」。
貸し出す権利として「貸与権」などがあります。
これらを総称して、「著作隣接権」といいます。
これは、著作物を多くの人に広める重要な役目を担う人に与えられる権利です。
【あなたを守る法律】
著作権法 第1条 目的
1 この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送および有線放送に関し著作者の権利およびこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とする。
ほかにも書籍では、恋愛・くらし・しごと・結婚など6つの章だてで、女性に起こりうる様々なトラブルに「どう法的に対処すべきか」が解説されていますので、興味がある方はチェックしてみてくださいね。
六法やDV防止法、ストーカー規制法...。女性の一生に寄り添う大切な法律が、6章にわたって解説されています。