仕事にお金、住まいなど、これからの暮らし方に悩むことも多い40代。日々を楽しむために、「自分が大切にしたいことを暮らしに取り入れて、いらなくなったものをなくしている」と言う人気モデルでデザイナー、母でもある香菜子さん。今年で45歳を迎えた彼女が、40代からの暮らし方をまとめたフォトエッセイ『毎日、無理なく、機嫌よく。』(すばる舎)から、気持ちを軽くして日々を過ごせるヒントを連載形式でお届けします。
あえて「しない」という選択
かつて味噌を作ったことがありました。
大豆を洗い、水に浸けて一晩。
数時間じっくり茹でて潰し、麹と塩を混ぜて樽に漬け、表面についたカビをとりのぞき、めんどうを見ながら1年近く。
ていねいに、ていねいに根気よく。
ほほお。
味噌って、こうやってできるのね。
手間をかけてじっくり発酵させた手前味噌、なんておいしいのでしょう。
味噌汁を作るたびにおいしくて「わたし、天才かも」なんて思ったのも束の間。
作ったのはなんと、一度だけ。
いつからかわたしは「味噌は、おいしく作られたものを感謝しつつ買う」ことに決めました。
一度でも作ったことがあるということは、とても意味のあることで、たとえ値が張っても「あれだけ手間がかかるんだもの」と気持ちよくお金を出すことができます。
そして現状、仕事を抱えながらの味噌作りなどは負担が大きすぎるのです。
気乗りしないということだって、作らない理由には十分です。
梅酒も、作ったのは数回のみです。
実家では、毎年母が作る梅酒を当たり前のように飲んでいましたが、なにしろ手間がかかりますよね。
おいしいものって。
梅酒を漬け込む時期にSNSを見ると、「梅仕事をしています」「今年はブランデーで漬けています」など、それぞれの楽しみ方で投稿が見られます。
そこで「ああ、わたしもやらなくちゃ」と焦ってしまうことがあるかもしれません。
わたしも以前は、そんなところがありました。
「みんながやっている」ように見えてしまうのが、SNSのちょっぴり怖いところ。
みんながやっていると聞くと、つい周りに流されて、やらないのはダメなように思ってしまったり、それができない自分をどうしても責めてしまいがちです。
でも、がんばりすぎてつらくなってしまうぐらいなら、やらないことにしたほうが、いっそ無理がかからずいいんじゃないかと思い直しました。
今は「わたしも同じようにすべき」とはまったく思わず、「この梅仕事の上手な友人の家に遊びに行ったら、梅酒いただこう。いひひ」という、やましい企てはしています。
味噌も然り。
わたしのように「買えばいいや」「お裾分けして貰えばいいや」って思っている人もいるはず。
そしてそんな人は、SNSにそのことを挙げたりしないのです。
「味噌が作れないからもらったよ、いひひ」なんてことは書かないのです。
やらないことと言えば、もうひとつ。
布巾をやめました。
冬場はまだいいのですが、夏場は台布巾が雑菌ですぐに臭うのがどうしてもいやなのです。
まめに消毒すればいいけれど、これも仕事の忙しさを言い訳にしているのと、塩素系漂白剤で消毒をしたら環境によくないかなあ、という思いもあります。
言い訳にもなるのですが、その選択をするならば...と、キッチンペーパーを食器用布巾、台布巾、鰹出汁を濾すときなど、大いに代用しています。
そんなに紙を頻繁に使ったら、それこそ環境によくないという考えもありますが、そのキッチンペーパーの原料が間伐材(密集する立木を間引く過程で生じる木材)だったら、わたしは迷うことなくこちらを選びます。
使って汚れたら、捨ててすっきり。
もちろん布巾を煮沸消毒するという選択もありますが、現状では手間がかかってやっていられません。
考え抜いた末のキッチンペーパーです。
それぞれの選択に理由があります。
比べるよりも、「なるほど、その考えもアリだよね」と考え方をひらりと返してみれば、不思議なくらい気持ちが軽くなります。
いつか生活スタイルや考えが変わって、今まで選ばなかったことが選択肢にあがることもあるはずです。
その時々でフィットする選択をしていけたらいいですね。
来客時は、使うグラスをキッチンペーパーでサッと拭いておきます。細かい繊維の残りや曇りが、きれいにとれます。汚れを拭きとったキッチンペーパーはゴミ箱へ。洗う手間もなくなりラク!
キッチンペーパーホルダーはあえて買わずに、以前使っていた、布巾掛けを有効活用。庭で摘みとったローリエを吊して乾燥させつつ飾りも兼ねます。
写真/砂原 文
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