20年ぶりに新紙幣発行!その隠された狙いとは【エコノミストの永濱利廣さんが解説】

いよいよ7月から新紙幣が発行されます。偽造防止に3Dホログラム技術を採用し、アラビア数字の額面表示を大きくする等の変更が加えられます。新紙幣発行の狙いや効果とは? エコノミストの永濱利廣さんにお話を聞きました。

※この記事は月刊誌『毎日が発見』2024年4月号に掲載の情報です。

タンス預金あぶり出しとキャッシュレス化の促進

7月3日から、新紙幣が発行される予定です。

新紙幣の主な特徴は、下で紹介しているような点。

サイズ自体はいまの紙幣から変化はありませんが、印刷される肖像が変わるだけではなく、偽造防止のために立体的に見える3Dホログラムの技術が採用されたり、年齢・国籍を問わず額面を読みやすくするためにアラビア数字(算用数字)が大きく表示されたりと、見た目が大きく変わります。

いまの紙幣の発行が開始されたのが2004年11月。

約20年ぶりとなる新紙幣の登場ですが、その狙いはどこにあるのでしょうか。

エコノミストの永濱利廣さんは「主な目的は新技術を採用することによる偽造防止なのですが、他にも隠された狙いがあると推察しています。1つは自宅に現金で貯め込まれている『タンス預金』のあぶり出しで、もう1つがキャッシュレス化の促進です」と話します。

まず1つ目のタンス預金のあぶり出しについてですが、新紙幣を発行することがどのように影響するのでしょうか。

「古い紙幣も使用できるので持ち続けていても問題はないのですが、紙幣が切り替わると古い紙幣を持ち続けるのはどこか気持ち悪いと感じるのが人の心理。いまの紙幣に替わったときも、実際にタンス預金があぶり出されたというデータがありますので、政府はこの点に期待しているはずです」(永濱さん)

しかし、なぜタンス預金をあぶり出す必要があるのでしょうか。

「眠っている現金を流通させることができれば、景気を刺激することができますからね。また政府にとっては、所得だけではなく資産の正確な把握もしやすくなるのも利点です」と、永濱さん。

そしてもう1つの隠された狙いが、キャッシュレス化の促進です。

前述の通り、新紙幣の発行はタンス預金のあぶり出しにつながります。

「その一部は銀行口座や電子マネーに振り替えられることが考えられます」(永濱さん)。

新紙幣発行は、このようにキャッシュレス化の促進にもつながるのです。

「日本は諸外国に比べてキャッシュレス決済が遅れています。促進すれば、より外国人観光客がお金を使いやすくなります」と、永濱さんは話します。

さらに「キャッシュレス化を促進したい理由はそれだけではありません。現金での授受だとお金の流れが把握しにくくなって適切な課税が難しくなるし、最悪の場合は資金洗浄などの犯罪にも利用されてしまうので、それを防ぎたいという意図も見え隠れします」とも続けます。

新紙幣の特徴

20年ぶりに新紙幣発行!その隠された狙いとは【エコノミストの永濱利廣さんが解説】 2404_P076-077_01.jpg主な変更点

・各紙幣の肖像が変更になる。
一万円札は「近代日本経済の父」とも評される実業家・渋沢栄一に、五千円札は国内の女子教育の先駆けとなった教育家・津田梅子に、千円札は「近代日本医学の父」と呼ばれる微生物学者・北里柴三郎に変わる。
・額面の表示は、アラビア数字(算用数字)が大きく表示されるようになる。
・新たな偽造防止技術として、肖像の周囲により精細な連続模様が施される。
・また紙幣表面には、3Dホログラムを用いた小さな肖像などが印刷される。見る角度を変えることで見え方が変わる立体的な特殊印刷で、紙幣に用いられるのは世界初。

現金派にとってはいまは損をする時代?

現金支払いをしたい人にとっては不便な世の中になりつつありますが、私たちはどのように対応していけばいいのでしょうか。

永濱さんは「いまは現金=損だと考えたほうがよい時代です」と話し、下で紹介しているような点に注意すべきだと指摘しています。

現金を持ち続けることでも、現金で支払いをすることでも損をしてしまうのだとしたら、新紙幣発行はキャッシュレス化を検討するいい機会になるかもしれませんね。

私たちはどのように対応すべき?

(1)タンス預金はどうする?

20年ぶりに新紙幣発行!その隠された狙いとは【エコノミストの永濱利廣さんが解説】 2404_P076-077_02.jpgもしタンス預金がある場合は、「無理やりキャッシュレス化する必要はありませんが、古い紙幣を持ち続けているのが気持ちの部分でしっくりこない場合は、現金を金融機関の口座に預けることくらいは検討するとよいと思います」と、永濱さん。
さらに「もし抵抗がないのであれば、今年から始まった新NISA(※1)などを利用してタンス預金を投資に回すことを考えてみてもよいと思います」と話しています。

(2)現金を持ち続けていると損をする?

20年ぶりに新紙幣発行!その隠された狙いとは【エコノミストの永濱利廣さんが解説】 2404_P076-077_03.jpgいま気になるのは、あらゆる物価が上昇していることです。永濱さんは「物価が上がると、金利も上がります」と話し、さらに「定期預金だけではなく普通預金の金利ですら上がってきているので、現金のまま持ち続けていると、相対的に価値が下がってしまいます」と続けます。

(3)キャッシュレス化はお得?

20年ぶりに新紙幣発行!その隠された狙いとは【エコノミストの永濱利廣さんが解説】 2404_P076-077_04.jpg「願わくば新NISAの活用も検討してみてもらいたいのですが、抵抗感があるなら、これまでの現金支払いをクレジットカード決済や二次元コード決済(※2)に変えるところから検討してみてはいかがでしょうか」と、永濱さん。
クレジットカード決済や二次元コード決済では、ポイントが還元されるサービスも多数あります。「キャッシュレス決済を取り入れたほうがいまはお得ですよ。私も二次元コード決済ができる店やタクシーを選んで利用しています」(永濱さん)。

※1 年間で定められた一定の金額内で購入した株式・投資信託などの金融商品から得られる利益に対し、税金が課されなくなる制度。
※ 2 スマホ画面に表示される二次元コードを読み取らせることで利用額が引き落とされるサービス。「PayPay(ペイペイ)」などが有名。
構成・取材・文/仁井慎治 イラスト/やまだやすこ

 

<教えてくれた人>

第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣(ながはま・としひろ)先生

1971年生まれ。東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。95年、第一生命保険入社、2016年より現職。著書に『給料が上がらないのは、円安のせいですか?』(PHP研究所)など。

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