ご近所や家族、パートナーや職場の人間関係に、もううんざり...。そんなあなたに贈りたいのが、臨床心理士の高品孝之さんの著書『イヤな人間関係から抜け出す本』(あさ出版)。「人間関係はRPG(ロールプレイングゲーム)。ルールを知り、役割をうまく演じれば対応できる」という高品さん考案のトラブル攻略法を厳選して、連載形式でお届けします。
「責任転嫁」ゲーム
「責任転嫁」ゲームは、自分の過ちを認めず、相手のせいにする人間関係ゲームです。
働きたくない人が、自分の収入が少ないのは政府の経済政策が悪いから、子どもが悪いことをするのは社会が悪いからなど、自分以外に責任を押しつけます。
※以下文中に出てくる用語について
・仕掛け人:人間関係ゲームを仕掛ける人
・カモ:仕掛けられる人
・交流分析:心理学の一分野。自分の心が安らかになり、人間と人間の交流(関係)がスムーズになるようにパターンやルールを明らかにしたもの。
・裏面交流:表面上の言葉や態度と違い、隠れた意図があること
子育てから逃れる夫(視点:カモ)
田中美子さん(38歳)は、息子の一郎くん(14歳)が深夜に帰宅することや成績が下がっていることに気を揉んでいます。
一郎くんの服から煙草のにおいがするので、悪い仲間がいるのではないかと心配しています。
美子さんは、夫の亮介さん(42歳)に相談をしますが、迷惑そうな顔をして、「俺は仕事が忙しいんだ。息子の教育はお前に任せる」と言われ、とても孤独を感じています。
ある日、一郎くんの担任から、「授業中寝てばかりいて、成績も急激に下がっており、さらには注意する先生に反抗的な態度をとっている」と言われました。
美子さんは担任に、夫が仕事ばかりで子どもの相手をしないこと、力が強くなった息子に、自分だけでは対応できない心細さを打ち明けます。
担任は、「このような問題は、ご両親が力を合わせて対応することが大切です。もう一度、旦那さんとご相談されたらどうですか?」と言います。
その夜、美子さんは再び亮介さんに相談しました。
亮介さんは相変わらず嫌な顔をしますが、思い切って、「あなたも一緒に考えて。あなたは父親でしょう」と言うと、亮介さんは怒りを露わにし、「非行に走るのも、成績が下がったのも、お前が日頃から子どもに甘いからだ。俺の状況を見て、仕事が精一杯で一郎の相手をすることはできないことがわからないのか!」と怒鳴り、寝室へ逃げてしまいました。
美子さんは台所に行き、食器を洗っていると、亮介さんの茶碗がぽろりと手から落ちて、割れてしまいました。
その時、美子さんの心に怒りが湧き、思わず近くにあったコップを投げて割ってしまいました。
「責任転嫁」ゲームは、仕掛け人が「自分の否定的な部分」をカモに投影することで生じます。
この事例の場合、仕掛け人である亮介さんは、カモである美子さんに罪悪感を投影しています。
罪悪感が強い亮介さんは、美子さんの欠点を指摘し、自分の罪悪感を押しつけているのです。
美子さんが自分の無能さを思い知り、みじめな気持ちになる時、亮介さんは家庭以外での別の無能さを感じている場合があります。
例えば、仕事でトラブルが続いてうまくいっていない場合や、収入が少ないこと、会社の人間関係や人事に関することがうまくいかないなど......。
いずれにしても知らず知らずのうちに自分を否定する気持ちを自分で認める代わりに、美子さんにそれを認めさせているのです。
この否定される思いを美子さんに投影して、亮介さんはうまく立ち回っています。
美子さんと亮介さんの関係を見てみると、普段、亮介さんは黙っていますが美子さんに何か言われた時、「自分は忙しい」「お前の問題」と突き放して批判することで、父親としての威厳を保っています。
つまり、亮介さんは何もしていないのに、主導権を握っているのです。
カモに責任ある仕事を任せ、仕掛け人は、批判する態度をとることで、家の主人としての威厳を保ちます。
美子さんも、「旦那が家の中心だから」と、知らず知らずのうちに、この状況を許してしまいます。
そのことに気づかぬままこの状況が続くことで、ゲームが進むのです。
「責任転嫁」ゲームの進行
「責任転嫁」ゲームは次のように進行します。
1.前提
(1)「世話を焼く人」「反省しやすい人」「相手に代わって物事を行う人」(カモ)がいる
(2)仕掛け人は、カモにすべてを任せ、自分を責任から隔離する
2.事件(混乱)が起こる
(1)仕掛け人は、カモがすべての責任をとって困り果てているのを知らないふりをする
(2)助けてくれない仕掛け人に対してカモは怒りを露わにする
3.結末(最終的にどのようになるか)
(1)仕掛け人は、ごね得(ごねただけ得をすること)になる
(2)カモは、自信喪失や無力感、疎外感、孤立感などのラケット感情を味わう