毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「最後まで積み重ねたおかえりモネ"らしさ」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
【前回】当事者「じゃないほう」の父と娘。対照的だった幼馴染と交錯した「決着」/23週目
【最初から読む】『おかえりモネ』は異例のスタート? 朝ドラの"重要な2週間"に思うこと/1~2週目
清原果耶主演のNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)『おかえりモネ』24週目のサブタイトルは「あなたが思う未来へ」。
いよいよ最終週。
従来の多くの朝ドラでは、次世代へのゆるやかなバトンタッチと大団円が描かれる最終週において、本作はラストにきてますますの驚きを与えてくれた。
大きな衝撃はまず、"菅モネ"の行方だ。
ゆっくりした歩みにより、ようやく永浦家への結婚の挨拶に菅波(坂口健太郎)が訪れた。
かと思えば、その翌2020年1月14日、菅波は呼吸器専門の医師を出してくれないかという緊急の要請を受け、「感染症なら人手が要るから」と急きょ東京に呼び戻される。
しかも、このタイミングで、新型コロナウイルスを思わせるこの内容。
菅波が、愛する人を失う怖さについて尋ねた亮(永瀬廉)に語った言葉「残念ながら僕らはお互いの問題ではなく、全くの不可抗力で、突然大事な人を失ってしまうという可能性をゼロにはできません。未来に対して、僕らは無力です。でも、だから、せめて今、目の前にいるその人を最大限大事にする他に恐怖に立ち向かう術はない」が、ここに結びついてくるとは。
さらに残り2話を残すところで、未知が震災時に、どうしてもその場を離れようとしない祖母を置いて逃げたこと、それをずっと自分は許せないという苦しみも吐露される。
これまで百音の後ろめたさのきっかけとなった未知の「お姉ちゃん、津波、見てないもんね」の言葉は、亮をめぐる恋心からの嫉妬と八つ当たりが主な理由だと思っていた人は多かったはずだ。
そして、地元に残ることも自ら選んだことのはずなのに、なぜこうも百音にきつくあたり、百音は過剰に未知に気を遣うのかと思っていたが......誰にも言えず、1人自分を責めてきたことが、姉妹の大きな溝を作っていたと思うと、これは切ない。
そんな未知に、百音は「みーちゃんは悪くない」と何度も言う。
未知が家族と衝突したときには耕治(内野聖陽)の笛を吹いておどけてみせ、未知の研究を大人たちに軽んじられたときにはかばっていた百音の姿が思い出されて、余計に胸が苦しくなる。
そして、ずっと気になっていた百音のサックスのケースが、ここに来て開かれる。
音楽の道を諦め、「音楽なんて役に立たない」と言っていた百音。
それでも時折ケースが映り込む様を見て、いつか再び吹いてもらえる時は来るのだろうかと思っていた。
しかも、ケースの中からは、あの日、百音の合格発表日で震災があった翌日、2011年3月12日の演奏会のチラシが出てくるのだ。
この脚本・演出はずるい。
この場面のみで本作を名作と呼んで良いレベルだと思う。
にもかかわらず、そこにさらに、百音の告白が続く。
かつては震災のときにいなかった後ろめたさや、痛みを共有できない苦しさから、開けられなくなったというケース。
しかし、その後は無力だった自分に戻るのではないかという不安で開けられなかったという。
それを幼馴染たちの前で初めて開くことができた百音に「おかえり」(未知)、「おかえり、モネ」(亮)。
まさかここで本当の意味でのタイトルの回収とは。
そして、浜辺にやってくる菅波。
「2年半会っていない」ことが語られ、距離も時間も関係ないと話す2人がハグする直前、寸止めで百音は尋ねる。
「......いいんですか?」「いいと思いますよ、もう」と言う菅波に「先生、本当におつかれさまでした」
詳しい説明のないわずかなやりとりに、菅波がコロナを想起させる感染症にあたってきて、それがようやく落ち着いた今が見えてくる。
人と人の触れ合いがようやくできる未来が、そこに見えた。
最後までブレずに「らしさ」を積み重ねてきた末に見えた、本作ならではの優しく美しい未来だった。
文/田幸和歌子