相続、介護、オレオレ詐欺...。年を重ねるにつれ、多くのトラブルに巻き込まれるリスクがありますよね。そこで、住田裕子弁護士の著書『シニア六法』(KADOKAWA)より、トラブルや犯罪に巻き込まれないために「シニア世代が知っておくべき法律」をご紹介。私たちの親を守るため、そして私たちの将来のための知識として、ぜひご一読ください。
マイナスの遺産は困りもの 遺産を相続したくないとき
被相続人が亡くなって3カ月が経過すると、相続人は、相続財産をすべて相続することになりますが、相続財産には、現金・株式のようにプラスの資産がある一方、債務(借金等)などのマイナスの資産もあります。
こうしたマイナス資産を相続したくない場合はどうすればよいのでしょうか?
【この条文】
民法 第922条(限定承認)
相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務および遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。
借金が多すぎると予想されるために相続するか決めかねているとき、まずすべきことは借金を含めた資産の全体を把握することです。
次に気を付けることは、「相続財産には手をつけない、一切使わない」ことです。
それらを3カ月以内にやり終えたうえで「限定承認」か「相続の放棄」の手続きを取ることが必要です。
限定承認
プラスよりもマイナスの遺産の方が多い可能性がある場合、プラスの遺産の範囲内でマイナスの遺産を相続することを「限定承認」といいます。
限定承認をするには、被相続人が亡くなったことを知ったときから3カ月以内に家庭裁判所に限定承認の申述書を提出する必要があります。
注意が必要なのは、必ず「相続人全員で」しなければならないことです。
1人でも反対する相続人がいる場合はできません。
そのため、マイナスになるかどうかなど財産の全体の調査が必要になりますが、調査に時間がかかる場合、3カ月を超すことを裁判所に申立てて例外的に認められることもあります。
しかし、相続人にとっては手間のかかる作業ですから、自分の資産状況については、元気なうちに財産目録を作成して把握しておき、相続人になる人たちに伝えて迷惑をかけないようにしましょう。
相続放棄
プラスもマイナスも含めて、一切の遺産を相続しないことを「相続放棄」といいます。
相続放棄をした相続人は、初めから相続人ではなかったということになりますので、借金などの債務を承継することもありません。
相続放棄をするには、亡くなったことを知ったときから3カ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出する必要があります。
限定承認と違い、一人でもできます。
放棄した相続人に子どもがいる場合、その子どもは放棄した相続人に代わってその相続分をもらうことはできません。
その子どもは代襲相続人にはなれないのです。
3カ月を経過してしまったら?
例えば、①3カ月以内に相続放棄をしなかった理由が「遺産がまったく存在しない」と信じたためであり、②亡くなった人の生活歴や、その相続人との交際状況などから見て、その相続人に「3カ月以内に亡くなった人の遺産調査をするべきだった」と期待することがとても困難な事情があり、前記①のように信じたとしてもやむを得ないといえる、というような場合には、「実際にその相続人が遺産の全部または一部を知ったとき」または「通常それを知ることができたとき」から3カ月以内であればよい、という例外的な取り扱いが判例(最高裁判所昭和59年4月27日判決)によって認められています。
相続財産の一部を使ってしまった場合
この場合は限定承認も相続放棄もできません。
単純承認をしたことになり、マイナス財産を含む一切の財産を初めから相続したことになってしまいます。
【その他の条文】
民法 第921条(法定単純承認)
第1項 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
第1号 相続人が相続財産の全部、または一部を処分したとき。ただし、保存行為および第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
民法 第923条(共同相続人の限定承認)
第1項 相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。
民法 第924条(限定承認の方式)
第1項 相続人は、限定承認をしようとするときは、第915条第1項の期間内(※3カ月)に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。
民法 第938条(相続の放棄の方式)
第1項 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
民法 第939条(相続の放棄の効力)
第1項 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
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