あなたはどう思いますか? 住田裕子弁護士が考える「自殺は『違法な行為』か、否か」/シニア六法(16)

相続、介護、オレオレ詐欺...。年を重ねるにつれ、多くのトラブルに巻き込まれるリスクがありますよね。そこで、住田裕子弁護士の著書『シニア六法』(KADOKAWA)より、トラブルや犯罪に巻き込まれないために「シニア世代が知っておくべき法律」をご紹介。私たちの親を守るため、そして私たちの将来のための知識として、ぜひご一読ください。

あなたはどう思いますか? 住田裕子弁護士が考える「自殺は『違法な行為』か、否か」/シニア六法(16) pixta_58146830_S.jpg

最期のあり方を見つめる


【事例①】
論客として有名な学者。妻に先立たれた後、持病の痛みに苦しんでいたこともあって自らの死生観に従って自殺を決意。その覚悟を家族に伝え、知人に入水自殺の手助けを依頼し、実行。その手助けをした知人は「自殺幇助罪」で逮捕され有罪に。

【事例②】
重篤な神経難病の患者。安楽死を希望するも主治医は対応せず、SNS上で別の医師に安楽死を依頼した。医師は患者と初対面で薬物を投与し、この患者を死に至らせ、「承諾殺人罪」に問われた。

【事例③】
重病で回復の見込みのない状態。徐々に悪化しており、これ以上長引かせては辛いだろう、家族も望んでいると考え、有害物質を注射したところ、「殺人罪」として起訴され、有罪に。


自殺は罪かどうかについての考え方

人が他人の自殺を手助けすれば「自殺幇助罪」に、頼まれて他人を殺害すれば「承諾殺人罪」に問われます。

いずれも違法であるとして犯罪になります。

一方、自殺についてはいろいろな意見はありますが、私は「命を失わせる行為」は他人がやれば当然、違法で(承諾)殺人罪になり、自らがなしたことであっても「違法」な行為であると考えます。

自殺自体を「法的に放任された行為」とする考えや、「処罰に値するほどの強い違法性はない行為」とする考えもありますが、私はそうであるとは考えません。

しかし、我が国の刑法には自殺罪や自殺未遂罪という犯罪は定められておらず、「罪刑法定主義」に基づき、処罰されません。

それは、自殺を企てる人に対して懲役などの刑罰によって思いとどめさせることを期待できず、刑罰という「責任」を負わせること自体が無意味なためだからではないでしょうか。

なお、WHOの自殺予防マニュアルによれば、自殺既遂者の90%が精神疾患を有していたことからも、多くは「責任」を問えない状況であることがうかがえます。

では、なぜ自殺を「違法」と考えるのか。

人の生命は、自分だけのものではありません。

人は、時を超え連綿とつながって生まれきて社会の構成員として存在している、という側面があるのです。

そのため、人の命は自分だけのものではなく、社会のものでもあると、私は考えています。

ですから自分勝手に自殺することは許されず、社会の中で生きる義務があると思うのです。

少し似た考え方として「名前・氏名」もそうです。

自分の名前ですが、社会でも使われるものなので、法律上の「氏」・「名」の変更は家庭裁判所の許可が必要なのです。

安楽死・尊厳死をどう捉えるか

事例③の医師は殺人罪として執行猶予付きの有罪になりました。

その横浜地方裁判所の裁判例では、医師による薬物・有害物質等の投与などの安楽死が許される要件として、次の条件を示しました。

(1)患者に耐えがたい激しい肉体的苦痛があること

(2)患者は死が避けられず、その死期が迫っていること

(3)患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし、代替手段がないこと

(4)患者自身による、安楽死を望む意思表示があること

これらの条件が満たされれば、安楽死が認められる(違法ではない)としましたが、事例③の患者には激しい肉体的苦痛があったとは認められず、安楽死を望む意思表示があったとも認められないなどとして、「殺人罪に当たる」としたのです。

そうすると、事例②の場合、少なくとも(3)の要件については、主治医ではないだけでなく初対面で、短時間のうちに薬物を投与したということならば、この要件に該当しない疑いが濃厚です。

その一方で、患者自身の苦痛をどう考えるか、別の次元で考える必要があるでしょう。

「安楽死」「尊厳死」という概念があります。

これは延命治療を施さず、自然な死を迎えさせることです。

例えば、人工呼吸器や点滴などの生命維持装置をつけない、あるいは、痛みを除くための麻酔等は死期を早めるとしても必要量を投与する......などの手段・行為は認められる、とする考えです。

ならば、必要量を超える麻酔薬についてはどうか、すぐに心肺停止に至る管を抜く行為はどうかなど、実は線引きも困難な問題が残されています。

少なくとも、このような事態に備えて、意識や判断能力が明瞭なときに、「尊厳死」を希望すると意思表明し、予測できる具体的な内容をある程度明示することなどがあれば、家族や医師も治療方針を立てやすいでしょう。

死期間近の最終段階では、自己決定権が認められるという考え方に基づきます。


ほかにも書籍では、認知症や老後資金、介護や熟年離婚など、シニアをめぐるさまざまなトラブルが、6つの章でわかりやすく解説されていますので、興味がある方はチェックしてみてください。

【まとめ読み】『シニア六法』記事リスト

あなたはどう思いますか? 住田裕子弁護士が考える「自殺は『違法な行為』か、否か」/シニア六法(16) 81rhSxCmGYL.jpg

 

住田裕子(すみた・ひろこ)
弁護士(第一東京弁護士会)。東京大学法学部卒業。現在、内閣府・総務省・防衛省等の審議会会長等。NPO法人長寿安心会代表理事。

81rhSxCmGYL.jpg

『シニア六法』

(住田裕子/KADOKAWA)

シニア世代にとって「老・病・死」は身近なものですが、そのうえで健康を維持し、トラブルをなるべく避けて穏やかに過ごしたいと望む方が多いと思います。介護トラブルやオレオレ詐欺に遭ったときの正しい対処法など、「老・病・死」に近づいたときのリスクと対応策が、とっても分かりやすく解説されています。法律を軸にパラパラとめくって、フンフンと頷ける…とっても「ためになる」一冊です!

※この記事は『シニア六法』(住田裕子/KADOKAWA)からの抜粋です。

この記事に関連する「暮らし」のキーワード

PAGE TOP