【らんまん】竹雄(志尊淳)が切ない...密かな恋心と疎外感。序盤の「視点主人公」が果たした「重要な役割」

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「竹雄の切なさ」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

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長田育恵作・神木隆之介主演のNHK連続テレビ小説『らんまん』の第3週「ジョウロウホトトギス」が放送された。本作は、明治の世を天真らんまんに駆け抜けた高知出身の植物学者・槙野万太郎(神木隆之介)の人生をモデルにしたオリジナルストーリー。

今週は万太郎、姉の綾(佐久間由衣)、奉公人の竹雄(志尊淳)それぞれの置かれた立場への苦悩と「好きなモノ」への湧き上がる思い、時を経てつながる思いが描かれた。

綾は酒造りへの興味が抑えられず、縁談を破談にしてしまう一方、蔵人の幸吉(笠松将)に造り方を教えてもらい、峰屋の看板の酒とは別に、濃い辛口の酒を幸吉と共に造ろうとする。しかし、綾と幸吉の造った酒はタキ(松坂慶子)に味見もしてもらえない。綾は幸吉を巻き込んだことを詫びるが、幸吉は大切に持っていたかんざしを渡し、「綾さまが今も酒造りをお好きで良かった」と微笑む。これは綾が昔、良い匂いがした女人禁制の酒蔵に入り、叱責されたときに落としたもの。それを幼い幸吉が拾って胸元にしまっていたのが、こうした形でつながるとは。

通常の朝ドラであれば、綾をヒロインにして古い慣習を打ち破り、酒造りに邁進する姿を描いても立派に成立しそうだが、綾は自分が嫁ぐことがみんなの幸せだとわかっていて、「自分のことばっかり。醜いよ」と自分を責めるのが切ない。

さらに切ないのは、綾に密かな思いを寄せる竹雄。しかも、綾と幸吉、竹雄の三角関係の恋愛を直接描くのではなく、綾と幸吉の間にある「酒造り」への思いという共通点と、峰屋の立派な働き手でありながら造り手ではない竹雄の疎外感を見せるのが、なんともうまい。竹雄は本作序盤の視点主人公でもあり、その視点が万太郎の異能も、それゆえの喜びも悲しみも際立たせる。

峰屋の酒を東京の博覧会に出すことになり、万太郎が、建前は当主として、本音は憧れの植物学者に会えるという思いで、東京行きを申し出る。お供は竹雄だが、万太郎の本音がわかっている竹雄にとって、これは寂しさや苦悩が募る旅でもあった。

悲しいかな、万太郎には酒蔵の当主としての素養がない。関心事が草花ばかりというだけでなく、なにせ下戸で、酒の品評会で勧められ、断り切れずに飲んで酔っ払ってしまうくらいだ。それでいて、万太郎が咲くべき場所も、竹雄には誰よりわかる。

万太郎は旅の最大の目的だった博物館を訪れ、子どもの頃から憧れていた植物学者・野田基善(田辺誠一)と出会う。万太郎が植物の絵を見せ、野田に新種かもしれないと言われた瞬間の目の輝きと頬の紅潮、浮かび上がる静脈に、万太郎の"本物"感が見て取れる。余計なナレーションも過剰な演出も不要になる神木隆之介の凄さと、それを最大限に引き出す作り手の信頼感が『らんまん』にはある。

日本の植物にはまだ学名がつけられていないものや発見されていないものがたくさんあり、日本人研究者で植物の名づけ親になった人はいないこと、だからこそ「植物分類学」が必要なのだという話を、目を輝かせ、前のめりに聞く万太郎。その本気度も、植物のことはわからないながらも、おそらく適性も、幼い頃から万太郎を見てきた竹雄はひしひしと感じるからこそ、万太郎の心が峰屋から離れていく不安を感じてしまうのだ。

博物館でどこから来たか尋ねられ、土佐の佐川村と言った後の「東京からは遠い......小さい村ですけぇ」と呟く竹雄の遠い目も、野田が最初に手掛けた仕事を小学生の万太郎が写していたと知った二人が抱き合い、喜び合う姿を窓越しに見た後の、寂しげに伏せた目も、セリフよりずっと雄弁だ。

綾と幸吉、万太郎と植物学者たち......それぞれに「好きなモノ」を持つ人同士が瞬時に時間も距離も飛び越えてつながる世界と、自分がいるべき世界に隔たりを感じ、遠くから見つめる竹雄の寂寞の念がにじむ視線は、文学的ですらある。

さらに万太郎は酔っぱらって木に登っていたとき、運命の女性――後に伴侶となる寿恵子(浜辺美波)とも出会ってしまう。

モデルとなる人物がいるために、この先の展開がわかっているからこその高揚感と切なさを最大限に引き出す良質な脚本と演出・芝居だった。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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