【らんまん】至高の新朝ドラ第2週。 絶妙な脚本・演出によって輝いた「ナレーション」の魅力

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「至高の第2週」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【らんまん】至高の新朝ドラ第2週。 絶妙な脚本・演出によって輝いた「ナレーション」の魅力 pixta_90735063_S.jpg

長田育恵作・神木隆之介主演のNHK連続テレビ小説『らんまん』の第2週「キンセイラン」が放送された。本作は、明治の世を天真らんまんに駆け抜けた高知出身の植物学者・槙野万太郎(神木隆之介)の人生をモデルにしたオリジナルストーリー。

他のどのドラマにもない、朝ドラの醍醐味の一つは、主人公が「好き」なモノを見つける瞬間・覚醒していく瞬間に視聴者が立ち合えること。朝ドラ史上最高傑作と名高い『カーネーション』がその筆頭であり、「好き」をまっとうに描けることが良作の一つの基準だと個人的には思っている。とはいえ、途中で息切れ・尻すぼみとなる作品も全体的に多いだけに不安はあるが、それにしても『らんまん』第2週(特に第8話!)は大事な箱に保管しておきたいと思えるようなきらきらした瞬間に溢れていた。

峰屋の当主としての期待を一身に背負う主人公・万太郎(小林優仁)は、町人ながら武家の子らが通う学問所「名教館」への入学を許されるが、草花に夢中なため、気が進まない。祖母のタキ(松坂慶子)が無理やり連れていくが、武家の子たちにいじめられた万太郎は、授業を放棄して帰ろうとする。そのとき、門前で「今こそ変わる時だ」と声をかけてきたのが謎の男(寺脇康文)だった。

万太郎はしぶしぶ学問所にやって来たが、草花を見ていたところ「コイツは汗をかく」「あまり暑いと葉を畳む」など植物の生態を教えてくれる者が。それは先の謎の男で、学問所の学頭・池田蘭光(寺脇康文)だった。蘭光は万太郎と共に地べたを匍匐前進しながら植物には全て名前があることを教えてくれる。澄んだ瞳を足元の草花から周囲の自然全体に向け、「おまんらみんな、名前があるがじゃ」と呟く万太郎。小さな胸に学問への好奇心が芽生え、ムクムクと育っていく瞬間――まるで万太郎の鼓動と呼応するような劇伴が流れる。

植物に関する書物を読みたいという思いから、文字を知るため国学・漢学を学び、蘭光の言う「森羅万象には理由がある」ことを知るため、異国の草花を知るために外国語や自然も学んでいく万太郎。学ぶ楽しさに目を輝かすのは、万太郎だけではない。「者ども、好きに学べや!」と蘭光が床にズラリと並べたたくさんの書物や資料に、我先にと群がる子どもたち。その視線の先にあるのは漫画やお菓子、ゲームじゃない。しかし本来、「学び」とは誰かに強要されたり、勧められたりするものではなく、自分の中から生まれてくる楽しさなのだ。そしてその楽しさは、万太郎をイジメていた佑一郎(岩田琉生)らとの間にあった壁も取っ払っていく。

そこから毎日夜明けを待ちわびて、走って学問所に通う万太郎の姿、積極的に挙手し、植物を、語学を学ぶ姿が描かれる。

「学ぶことが楽しくて面白くて、夢中になるまま3年が過ぎました」のナレーションの効果的な端折り方。朝ドラに限らず、ナレーションは厄介な説明や描写が難しい場面・撮影の手間のかかる場面などの「逃げ」として省エネ的に使われることも多いが、ナレーションの魅力って、本来はこういうものだ。脚本と演出が噛み合うと、こうもナレーションの一節が輝くとは。

しかし、万太郎の学力・才を、タキは喜ぶことができなかった。造り酒屋の当主の自覚が万太郎に不足していることを心配したタキは、蘭光に万太郎の退学を申し出る。すると、蘭光は明治新政府が小学校を開校させるため、まもなく学問所は廃止になり、自身も去ることを告げるのだった。蘭光は、失意の万太郎と佑一郎を最後の課外授業に連れていく。

そして、学問所は廃止され、小学校が開校した。酒造りへの興味が抑えられず、当主のみが許された酒造りに関する書物を見てしまい、タキに叱責された綾(高橋真彩)も、万太郎と共に小学校に通うこととなった。それは女性にとって大きな一歩だ。

一方、学問所で高度な学問に触れてきた万太郎にとって、小学校の授業は簡単すぎてつまらないため、壁に貼られた植物図を見たり、校庭の草花に夢中になったりしていると、先生に厳しく注意を受ける。そこで万太郎は授業がつまらないこと、もっと面白いことが知りたいことを英語で伝え、英語がわからない先生は「お前は先生をバカにしているのか」と激怒。出て行けと言われた万太郎は「わかりました! ほんならやめます!」と小学校を軽やかに中退する。

子どもたち全員を聞き分けよく従順な「Mサイズ」の規格内に育てようとする公教育のあり方からはみ出しまくる万太郎の痛快さ。そして、はみ出し続け、学び続けた万太郎は、いよいよ本役・神木隆之介へ。この熱量をどこまでも維持してほしいと思う至高の第2週だった。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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