相続、介護、オレオレ詐欺...。年を重ねるにつれ、多くのトラブルに巻き込まれるリスクがありますよね。そこで、住田裕子弁護士の著書『シニア六法』(KADOKAWA)より、トラブルや犯罪に巻き込まれないために「シニア世代が知っておくべき法律」をご紹介。私たちの親を守るため、そして私たちの将来のための知識として、ぜひご一読ください。
相続トラブル② 囲い込みと使い込み
最近増加しているのが、生前に親を他のきょうだいと会わせないようにする「囲い込み」と、親の財産管理をしていた子どもの「使い込み」をめぐる相談です。
さまざまな事例を踏まえて見ていきましょう。
【事例】
父はすでに亡くなり、86歳の母が妹一家と同居中の兄です。兄が母の携帯電話に かけると母は出ず、妹が出ます。妹に「今度遊びに行くよ」と言うと、妹は「母さんは兄さんに会いたくないと言っている。連絡もしないでほしい」と言って電話を切ってしまいました。兄にはこんなふうに言われる覚えはないので、なんとか一度母親と会って誤解があるのなら解きたいと思っているのですが......。
まずは、話し合いです。
他のきょうだいや親族等の信頼できる人に相談し、間に入って事情を聞いてもらいましょう。
らちがあかなければ、弁護士を通して母との面会を求め、事情の説明も求めます。
それでも拒否されれば、家庭裁判所に親族関係調整調停、親族間の紛争調整調停を申し立てることになります。
参考になる裁判例があります。
兄が、認知症で施設に入所している両親を妹に会わせないようにした事案です。
「子が両親の状況を確認し、必要な扶養をするために、面会交流を希望することは当然であって、それが両親の意思に反し両親の平穏な生活を侵害するなど、両親の権利を不当に侵害するものでない限り、債権者(妹)は両親に面会をする権利がある」と明言して面会妨害禁止の仮処分を認めました(横浜地方裁判所平成30年7月20日決定)。
また、三女が母親と面会することを長女と次女が妨害したことについて、三女から長女と次女に対する慰謝料等110万円の請求が認められた裁判例もあります(東京地方裁判所平成30年12月6日判決)。
【事例】
父と兄が同居しており、父の死後、弟が父名義の預金通帳を見たところ、父が入院してから死亡するまでの間に毎日、ATMで限度額いっぱいに、総額1千万円近くの預金が引き出されていました。弟は、兄が勝手に引き出して使い込んだのではないかと思い、兄を問い詰めたところ、「親の面倒を見たのは俺だ。介護の苦労も知らないお前にそんなことを言われる筋合いはない」と言われて険悪な関係になってしまいました。
このような「使い込み」ケースは、疑わしいものも含め、非常に多いのです。
資産を管理するうえでの取り決めが大切です。
また、次のような対策が考えられます。
・ 入出金の記録や使途をメモし、領収書は保存する
・ 他のきょうだいからの問い合わせに誠実に答える
・ 大きな支出をする際には他のきょうだいにも相談する
・ 後見制度を利用して、家庭裁判所および専門家から選ばれた成年後見人や後見監督人に財産管理への関与をしてもらう
・ 後見人を選任して資産は後見制度支援信託を使う。裁判所の指示によらなければ払い戻しができない仕組みにする
・ 保護・管理者として一定の報酬を約束しておく
介護は金銭だけの問題ではありません。
その苦労をねぎらい、ときには手伝うなどして共有することも大切です。
なお、同居している親族の間での「横領罪」は刑が免除されます。
そもそもが家族内で解決すべき問題です。
なお、遺産分割のときに使い込んだ金額を含めて最終調整することになるでしょうが、当事者同士で紛糾するおそれがある場合は、第三者を入れての解決を目指すことが望ましいでしょう。
【その他の条文】
刑法 第257条(親族等の間の犯罪に関する特例)
第1項 配偶者との間、または直系血族、同居の親族、もしくはこれらの者の配偶者との間で前条の罪(※窃盗、横領など)を犯した者は、その刑を免除する。
ほかにも書籍では、認知症や老後資金、介護や熟年離婚など、シニアをめぐるさまざまなトラブルが、6つの章でわかりやすく解説されていますので、興味がある方はチェックしてみてください。