相続、介護、オレオレ詐欺...。年を重ねるにつれ、多くのトラブルに巻き込まれるリスクがありますよね。そこで、住田裕子弁護士の著書『シニア六法』(KADOKAWA)より、トラブルや犯罪に巻き込まれないために「シニア世代が知っておくべき法律」をご紹介。私たちの親を守るため、そして私たちの将来のための知識として、ぜひご一読ください。
誰にどう残せばいい? 遺産の分け方の基本
遺産とは、亡くなったときにその人が持っていた財産です。
預金、株式、不動産など、プラスの財産も遺産ですが、借金などのマイナスの財産も遺産です。
また、亡くなったときにはすでに持っていなかった財産であっても、生前に子どもに渡したマイホーム資金、結婚資金、独立開業資金などは、遺産分割や相続税の計算をする際に「遺産の前渡し」(特別受益)であるとみなされて、遺産としてカウントしなければならない場合(持ち戻し)があります。
【この条文】
民法 第882条(相続開始の原因)
相続は、死亡によって開始する。
「法定相続人」「法定相続分」「遺留分」とは?
亡くなった後、その人の遺産を受け取る権利があることについて、法律で定められている人を「法定相続人」といい、それぞれがもらえる遺産の割合を「法定相続分」といいます。
自分の遺産を受け取る人やその割合を「法定相続分」のとおりにしたくない場合には、遺言書を書くという方法があります。
ただし、遺言書を作成する場合には、遺留分に注意しましょう。
遺留分とは、法律で定められた最低限の相続分のことです。
妻・子はそれぞれの法定相続分の2分の1を、親は3分の1を遺留分として持っており、遺言でもこの遺留分は侵害できません。
養子縁組は法定相続人ではなくなるのか?
他の夫婦の養子になっても、実の親との親子関係がなくなるわけではありません。
養親の両親からも実の両親からも、法定相続人として遺産をもらえます。
ただし、特別養子の場合は、実の親子との関係はなくなるため法定相続人とはならず、養親のみの法定相続人となります。
親権を手放した子どもの相続権はどうなるのか?
離婚して元配偶者に子どもの親権がいっても、親子であることには変わりはないので、法定相続人になります。
異母(異父)きょうだいの相続権は?
異母(異父)きょうだいも法定相続人になります。
ただし、片親だけ同じ(半血)きょうだいは、両親とも同じ(全血)きょうだいの半分しか法定相続分がありません。
夫婦のうち、夫が死亡し、子どもがいない場合
法定相続人と相続分は、夫の親が生きていれば妻が3分の2、夫の親が3分の1です。
しかし、夫の親が生きていなければ、妻が4分の3、夫のきょうだい分が4分の1です。
さらに、夫のきょうだいが亡くなっていれば、その子ども(甥、姪に当たる)が法定相続人になります(代襲相続人)。
きょうだいや甥や姪に相続させたくないなら、遺言書を作成することをお勧めします。
きょうだい、甥・姪には遺留分がないのです。
【その他の条文】
民法 第887条(子およびその代襲者等の相続権)
第1項 亡くなった人の子どもは、相続人となる。
第2項 子どもが先に亡くなっていた場合等は、孫が相続人となる。
民法 第889条(直系尊属およびきょうだいの相続権)
子どもも孫も、ひ孫もいない場合は親が相続人となり、親が先になくなっている場合はきょうだいが相続人となる。
きょうだいも先になくなっている場合には、甥や姪が相続人となる。
民法 第890条(配偶者の相続権)
配偶者は、常に相続人となる。
民法 第900条(法定相続分)
第1号 子どもと配偶者が相続人であるときは、法定相続分は2分の1ずつである。
第2号 配偶者と両親や祖父母が相続人であるときは、法定相続分は配偶者が3分の2、両親や祖父母が3分の1である。
第3号 配偶者ときょうだいが相続人であるときは、法定相続分は配偶者が4分の3、きょうだいが4分の1である。
第4号 同じ身分関係の相続人が複数いる場合は、均等割りとなる。ただし、片親のみ同じきょうだいの相続分は、両親とも同じきょうだいの2分の1である。
民法 第901条(代襲相続人の相続分)
第887条や第889条によって孫や甥や姪が相続人になる場合は、それぞれの親が本来受けるべきだった法定相続分のとおりとなる。
※相続放棄と相続の欠格事由、廃除には代襲相続の扱いが違います。
民法 第1042条(遺留分の帰属およびその割合)
第1項 きょうだい以外の相続人は、遺留分として、次のとおりの割合に相当する額を受ける。
第1号 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の3分の1
第2号 前号以外の妻・子(孫)が相続人の場合 被相続人の財産の2分の1
ほかにも書籍では、認知症や老後資金、介護や熟年離婚など、シニアをめぐるさまざまなトラブルが、6つの章でわかりやすく解説されていますので、興味がある方はチェックしてみてください。