DVやハラスメント、性犯罪に娘のいじめ...「女性が巻き込まれやすいトラブル」は数多くあります。でも、そうした悩みを解決したくても、「誰かに相談したら逆に悪化するかも...」とどうしていいかわからない人も多いと言います。そこで、弁護士の上谷さくらさんと岸本学さんの著書『おとめ六法』(KADOKAWA)より、女性の味方になってくれる「法律」についてご紹介。ぜひ、ご自身やお子さんがトラブルの参考にしてください。
【事例①】
仕事の取引先から呼び出されて行くと、最初は仕事の話をしていたのが、しだいに身体にさわりはじめた。「やめてください」と言うと「うちとの取引がなくなったら困るだろう?」と、関係を持つようほのめかされた。
【ANSWER】
取引先のこのような要求に応じる必要はありません。この場合は取引先との関係でありますが、男女雇用機会均等法の「職場」と考えられます。また刑法の強制わいせつ罪、強要罪、迷惑防止条例違反などにもあたる可能性があります。自分の会社に相談しても「取引先なので我慢して」などと言われ、まともに対応してもらえない場合は、弁護士などの専門家に相談してみましょう。
セクハラことセクシュアル・ハラスメントの定義はさまざまですが、広く捉えると「望まない性的言動」です。
「セクハラ罪」という罪はありません。
ただし内容によって、迷惑防止条例違反、強制わいせつ罪、強制性交等罪、名誉毀損罪、侮辱罪などにあたる可能性があります。
セクハラについて直接規定しているのは、男女雇用機会均等法で、職場での性的言動から起こる問題について定められています。
「性的な言動」には、一般的に次のようなものが含まれます。
● 発言型...何度も容姿を批判する、性的な経験を尋ねる、卑わいな話をするなど
● 身体接触型...意に反して女性従業員の腰、おしり、胸などにさわったり抱きついたりする
● 視覚型...職場にヌードポスターを掲示する、宴席で裸踊りを見せたりするなど
セクハラを広い意味に捉えると、職場に限られず、性的な冗談からレイプまで、あらゆる場面でセクハラは生じているともいえます。
「望んでいない」というのは、性的な言動があっても、合意のうえであれば違法性がないからです。
職場でのセクハラは、上司や取引先など、立場上断りにくい関係が利用されがちです。
解雇、降格、減給、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外などの不利益を受けるのではないかとのおそれから、拒否や抵抗がしにくいのです。
セクハラは性別問わず起きる
この法律が対象とする「労働者」とは、性別を問わず、非正規労働者を含むすべての労働者です。
男性に対しても、女性と同様、セクハラの被害が生じえます。たとえば、過去の性経験について聞かれる、風俗店へ一緒に行くことを強要される、職場で好意を持っている女性の名を言わされる、上司や上司の知人の娘との結婚を求められる、などといった事例がありえます。
【事例②】
深夜、会社で残業中、上司に強引にキスをされたり、胸をさわられたり、強引に性的関係を持たされたりした。
【ANSWER】
このような場合は、強制わいせつ罪、強制性交等罪にあたります。十分な証拠があれば、刑事告訴も検討できるため、弁護士に相談しましょう。
「あの人、上司と不倫しているらしい」などと性的な内容のうわさを流すなどの行為は名誉毀損罪に、大勢の前で「お前みたいな人間と性行為をするやつはいない」などと性的に侮辱する行為は侮辱罪に問われることも考えられます。
「望んでいない」意思を示そう
セクハラを嫌がる気持ちを隠して笑顔で対応していると、相手が「受け入れてもらえている」と勘違いをして、行為がエスカレートする危険もあります。
このような対応は「合意していたと思っていた」と相手が主張する余地を与えてしまうため、裁判などで不利に働く要因にもなりかねません。
●ほかの誰にも知られない方法で、セクハラ行為をしている当の本人に「それはセクハラなのでやめてください」とはっきり伝える
●信頼できるほかの社員・上司に相談して、やめるよう伝えてもらう
●社内に設置されている相談窓口に相談する
●外部の相談機関に相談する
このような対応で、嫌がっているという意思表示をしましょう。
会社に相談し、調査の結果セクハラがあったと判断された場合、加害者がなんらかの処分を受ける可能性があります。
ただし、相手を解雇するかは会社の判断によります。
社長のように、社内で大きな権限を持つ人が加害者の場合、会社の相談窓口や人事部に相談しても、見て見ぬふりをされてしまうこともあるのが現状です。
そのような場合は、労働基準監督署や弁護士に相談しましょう。
メモや日記を書いておく
慰謝料請求として訴える、あるいは警察に被害届を出すことも考えられますが、争いになると証拠が必要になります。
いつ、どこでどのようなことをされたかメモに残したり、抗議に行くときは録音するなどします。
会社に相談する際も、客観的な証拠を確保しておくのが望ましいでしょう。
メモは、具体的に書くことが重要です。
後から書き加えたものと、そのときに書いたものでは差が出ます。
その日のうちに親や友人にメールなどで送信しておけば、より信頼性が高まります。
企業規模や職場の状況を問わず、事業主は、職場でのセクハラ防止のために次の措置を行うことが義務づけられています。
● 事業主の方針の明確化およびその周知、啓発
● 相談や苦情に対応するための体制の整備
● 職場のセクハラに対する適切かつ迅速な対応
● 相談者のプライバシーを守ること
● セクハラの相談をしたことで、その相談者を不当に扱わないこと
セクハラかコミュニケーションか
「相手が嫌だと思えばなんでもセクハラになるの?」という疑問があがることがあります。
これは、「性的な言動で、職場の人が嫌な思いをすればセクハラになる」という意味では正しいと考えられます。
そもそも通常、職場において「性的な言動」は業務に無関係です。
それによって不快な思いをする人がいることはあってはならないことです。
もちろん、業務上必要な内容であれば、性的であってもセクハラにならない例外的な場合もありえるでしょう。
たとえば、社内のセクハラ事案について調査をする場合に、被害者に被害状況を聴取する場合や、制服などを作るためにサイズを確認する場合などです。
しかしそのような場合でも、できるだけ不快な思いが生じないよう、職場には最大限の配慮が求められます。
【あなたを守る法律】
男女雇用機会均等法 第11条 職場における性的な言動に起因する 問題に関する雇用管理上の措置
1 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、または当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
ほかにも書籍では、恋愛・くらし・しごと・結婚など6つの章だてで、女性に起こりうる様々なトラブルに「どう法的に対処すべきか」が解説されていますので、興味がある方はチェックしてみてくださいね。
六法やDV防止法、ストーカー規制法...。女性の一生に寄り添う大切な法律が、6章にわたって解説されています。