相続、介護、オレオレ詐欺...。年を重ねるにつれ、多くのトラブルに巻き込まれるリスクがありますよね。そこで、住田裕子弁護士の著書『シニア六法』(KADOKAWA)より、トラブルや犯罪に巻き込まれないために「シニア世代が知っておくべき法律」をご紹介。私たちの親を守るため、そして私たちの将来のための知識として、ぜひご一読ください。
【事例】
高齢者による自動車事故が増加しています。本人はまだまだ大丈夫だと思っていても、家族は心配です。もし、事故を起こしてしまったら、本人だけでなく家族も責任を負うのでしょうか?
【ワンポイント】
加齢により運転への適性が低下しているとしても、少なくとも自ら運転しているという事実から、ある程度の判断能力がある(責任無能力ではない)と判断され、自分の行為の責任は自分で負うことになります。
交通事故を起こしてしまった
高齢者は交通事故の被害者だけではなく加害者にもなり得ます。
赤信号の見落とし、アクセルとブレーキの踏み間違い、間違いと感じてあわててしまい、かえって急加速した結果、大事故の発生......。
このような現状を受け、道路交通法の改正が進んでいます。
70歳以上の高齢者は、運転免許証の更新時に高齢者講習を受けることが義務化されました。
75歳以上は、認知機能検査を受けたうえで、その結果に応じた内容の講習を受けることも義務化されました。
さらに、一定の違反歴がある75歳以上には、実車試験も義務付けられます(令和4年度〜予定)。
不合格なら免許は更新されません。
再受験は可能ですが、合格は厳しくなるでしょう。
刑事責任はどうなる?
自動車事故によって他人にけがをさせた場合は、「過失運転致死傷罪」に当たります。
普段運転している以上、責任能力はあると判断されます。
しかし、判断能力やとっさに対応する行動能力が落ちており、事故の危険性が増していることは事実です。
なお、事故を起こして気が動転するなどしたために、被害者の救護や警察への通報を怠り、その場から逃げるケースもあります。
しかしこれは、「ひき逃げ」の重罪で、逮捕される可能性があります。
防犯カメラや車の塗料破片などの捜査によって、検挙率は極めて高く、逃げおおせることはできません。
民事責任はどうなる?
治療費・慰謝料以外に、休業損害、後遺障害がある場合の労働能力喪失割合に応じた逸失利益、死亡の場合の葬儀費用、物的損害の修理費など......交通事故は、さまざまな被害が発生します。
運転している以上、民事上も責任能力はあるとされるでしょう。
人身事故の場合、自賠責保険から損害賠償の一部が補償され、その限度額を超える損害が任意保険によって補償されます。
これらの保険に入っていないと加害者が自己資金から賠償金を支払わなければなりません。
高額になりますから、損害保険の更新手続きを怠らないようにしましょう。
刑事裁判では、示談(和解)のために保険金以外に自己負担金を上乗せして支払うケースもあります。
万一支払えない場合には自己破産という手段がありますが、悪質な事故の場合、破産は認められても債務の免責は認められないことがあります。
過失相殺
被害者が赤信号で道路を横断したり、急に物陰から道路に飛び出したり、夜間に道路の真ん中を徘徊していたなどの場合には、被害者にも一定の落ち度があるとみなされ、過失相殺されることがあります。
損害の一部を被害者が負担することになり、加害者の支払う賠償金が減ります。
一方、被害者が高齢者である場合、「高齢者の動きには注意すべきであるのに怠った」として、加害者側の落ち度が加算されるケースが多くあります。
家族の責任は問われるのか?
通常、車の運転が一定程度できるということは、責任能力が欠如しているわけではないので、その点で家族には監督義務はなく、その責任は、問われません。
しかし、認知症が進行していて普段から危険を感じるほどであれば、ケースによっては、監督義務が発生します。
例えば、普段の行動もおぼつかないのに、勝手に自動車の鍵を持ち出して車に乗り込み、いきなり急発進して事故を起こしたなどの場合は、本人に責任能力が認められず、監督義務者がその監督義務を怠ったとして本人に代わって責任を問われることは十分にあり得ます。
【その他の条文】
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律 第5条(過失運転致死傷罪)
自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死亡させたり傷害を負わせたりした者は、7年以下の懲役、もしくは禁錮、または100万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
道路交通法 第117条(ひき逃げ)
第1項 車両等(軽車両を除く)の運転者が、当該車両等の交通による人の死傷があった場合において、第72条(交通事故の場合の措置)第1項前段の規定に違反したときは、5年以下の懲役、または50万円以下の罰金に処する。
第2項 前項の場合において、同項の人の死傷が当該運転者の運転に起因するものであるときは、10年以下の懲役、または100万円以下の罰金に処する。
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