万引き女子高生をめぐって先生同士が大喧嘩・・・!? あなたにも起こる「仲間割れゲーム」/イヤな人間関係(6)

ご近所や家族、パートナーや職場の人間関係に、もううんざり...。そんなあなたに贈りたいのが、臨床心理士の高品孝之さんの著書『イヤな人間関係から抜け出す本』(あさ出版)。「人間関係はRPG(ロールプレイングゲーム)。ルールを知り、役割をうまく演じれば対応できる」という高品さん考案のトラブル攻略法を厳選して、連載形式でお届けします。

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「仲間割れ」ゲーム

「仲間割れ」ゲームは、自分の周りにいる人をわざと対立させて、「馬鹿な人たちだ」と他者を否定する気持ちを、心の中で確かめるために行われます。

仕掛け人は無意識の場合もありますが、意識的に巧妙なやり口で他者を対立させる場合もあります。

※以下文中に出てくる用語について

・仕掛け人:人間関係ゲームを仕掛ける人

・カモ:仕掛けられる人

対立を煽る女子高校生(視点:カモ)

R高校は、絶えず授業中に私語があり、暴力などの非行事件が時々起こっているので、地域の人からは「不良が行く高校」と言われています。

そんな高校にカウンセリングの技術をマスターした上野康史先生(35歳)が赴任しました。

これまでの生徒指導では、規則を守らない生徒に対し、叱責や掃除、威嚇などで対応していましたが、上野先生は「これでは生徒がよくならない」と危機感を持ち、面談による会話や問題解決のためのカウンセリングを心掛けることにしました。

生徒は、上野先生が赴任したことで、「話を聞いてくれる先生が来た」と喜びました。

ある日、2年生の武田藤子さん(17歳)が、上野先生のところへ恋愛の相談に行きました。

悩みを聞いた上野先生は、共感し、適切なアドバイスをします。

アドバイスを聞いた藤子さんは、すがすがしい気持ちになり、何度もカウンセリングを受け、上野先生を慕うようになりました。

藤子さんが職員室に行くと、1年、2年と続けて担任となった下河勝先生(41歳)には挨拶もせず、まっすぐ上野先生のところへ行き、「先生、カウンセリングお願い。ホームルームの時間にやって」と頼みます。

カウンセリングは決まった時間でしかやらないと言っても藤子さんは聞く耳を持ちません。

「ホームルームに出てもつまらなくて。カウンセリングのほうがいい」と職員室中に響く声で話します。

また、下河先生と上野先生が校門指導で校門に立っている時、藤子さんは「上野先生、おはようございます」と、下河先生には挨拶をしないで、上野先生にだけ挨拶をします。

下河先生は、だんだんと面白くない感情にとらわれていきます。

そのうち、「上野は、生徒に媚びばかり売って、肝心の生徒指導をしていない。カウンセリングと言いながら、生徒にいい加減なことばかり言っている。あんなやつがいると学校がどんどん荒れていく」と心の中で上野先生の批判をはじめます。

そんなある日、藤子さんが衝動的に1万円のネックレスを万引きしてしまいました。

藤子さんの処罰を話し合う職員会議の場で下河先生は、「武田を甘やかすからこんなことになるのだ。あの人が生徒をだめにした」と、ひそひそと上野先生を中傷しています。

それを聞いた上野先生が、「あまり生徒を頭ごなしに怒鳴りつけることはいけないと思います。やはり、カウンセリング・マインドで生徒と向き合うべきです」と言うと、下河先生も、「それは私のことを言っているのですか? たしかに武田を激しく怒ったことはあります。でもね、今まで、万引きをすることはなかったんです。カウンセリングと言いながら、甘やかした結果、武田は万引きしたのではないですか?」と応酬し、激しい罵り合いがはじまりました。

「仲間割れ」ゲームは、「スプリティング」と共に他者を否定する思いを他者に投影して、自分の周りの者を「良い・悪い」に分断してしまう特徴があります。

スプリティングとは心理学用語で、「AかBか」「良いか悪いか」など、両極端の態度や結論を持つことをいいます。

スプリティングを自分の周りに投影することで、周りの人が、「あの人は良い。あの人は悪い」という言い合いをはじめます。

事例を見ると、表面上は下河先生と上野先生の教育方針や生徒指導の手法の違いによる争いのように見えます。

しかし、よく見ると、藤子さんが2人を巧みに挑発しているのです。

藤子さんは、わざわざ下河先生の目の前で上野先生を褒め、下河先生をけなしています。

下河先生は、もう2年間も藤子さんの面倒を見ているので、藤子さんは下河先生が嫉妬することを知っているのです。

つまり、ここでは藤子さんの「スプリティング」が働いています。

仕掛け人は、強い「見捨てられるかもしれないという不安」を持っている場合があり、自分に注目してもらうための異常な努力が見られたりします。

一見、藤子さんは自分を否定するように見えませんが、心の中では自分を否定していることが多々あります。

これがスプリティングとなり、周りの者たちを深い混乱に巻き込みます。

また、スプリティングと「見捨てられるかもしれないという不安」をあわせ持っている人は、罪悪感があまりないので、行動に歯止めをかけられません。

藤子さんは、上野先生を慕い、信頼しているように見えますが、それは表面上のことであり、内心は上野先生を強く否定している場合が多いのです。

カモになった人は、はじめ「いい人」「素晴らしい人」と言われますが、たいていの場合、後から「バカ」「ダメな人」など、否定的な言葉をかけられるようになります。

事例で、藤子さんからスプリティングを投影された上野先生と下河先生は、「自分は良い。相手は悪い」と二分した思考になってしまいました。

冷静に考えれば、上野先生の「いつも頭ごなしに怒ることは教育上好ましいことではなく、怒ったり、説得したり、柔軟に対応するのが大切だ」という考えも、下河先生の「説得ばかりではなく、時には強く叱ることも生徒の成長には必要だ」という考えも、実際はどちらも大切で、時と場合で使い分ける必要があるとわかります。

しかし、嫉妬と怒りに駆られ、「仲間割れ」ゲームに巻き込まれたことによって、冷静に考えることができなくなり、罵り合うことになってしまったのです。

2人とも見事に仕掛け人である藤子さんにやられてしまいましたね。

「仲間割れ」ゲームの進行

「仲間割れ」ゲームは、次のように進行します。

1.前提

(1)仕掛け人は、自分を否定し、他人を信頼しない

(2)仕掛け人は、他人をゲームに巻き込む行為を何気なく行う

(3)仕掛け人は、他人をゲームに巻き込んだ後、部外者となり、争いに加わらない

(4)そそのかれやすく、敵対心の強い人がカモになりやすい

2.事件(混乱)が起こる

(1)ライバル関係にある2者(カモ)が疑惑や嫉妬を抱く

(2)噂話や陰口などが生じ、大きな事件をきっかけに争いが激化する

3.結末(最終的にどのようになるか)

(1)カモたちのテリトリー(職場など)の対立や混乱が勃発する

(2)カモたちの仲間割れが生じる

【次ページ:「仲間割れ」ゲームから抜け出す方法】

 

高品孝之(たかしな・たかゆき)
1960年北海道生まれ。臨床心理士。一級交流分析士。博士(教育学)。早稲田大学国文科卒業後、高校の教員になるも人間関係のトラブル解決の困難さを目の当たりにし、心理学を学ぶ。北海道大学大学院教育研究科博士後期課程を修了後、30年間、高校の現場で心理学的手法を用いて、生徒と生徒、生徒と親、親と親など、さまざまな人間関係のトラブルを解決してきた。

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『イヤな人間関係から抜け出す本』

(高品孝之/あさ出版)

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※この記事は『イヤな人間関係から抜け出す本』(高品孝之/あさ出版)からの抜粋です。
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