定期誌『毎日が発見』の読者アンケートで、これからの住まいについて350人にお聞きしたところ、約8割の人がいまの自宅に住み続けたいと回答されました。一方で、約9割の人がその自宅に問題があると考えているようです。そこで今回は、終の住処 設計企画 終の住処コンサルタントの田中 聡(たなか・さとし)さんに、「自宅で長く暮らすコツ(介護・家族編)」についてお聞きしました。
【前回】意外と盲点!? 「自宅で長く暮らす」にも「住み替えする」にも知っておきたい3つのこと
自宅で長く暮らすコツ【介護・家族編】
地域包括支援センター
いろいろな相談ができ、65歳以上なら利用可能
地域包括支援センターは、行政が委託した公的機関で、高齢者のよろず相談所的なところです。
保健師や主任ケアマネジャー、社会福祉士など資格を持った専門家が無料で相談にあたっています。
65歳以上なら誰でも利用でき、要介護・要支援認定の申請サポートや、介護プランを作成するケアマネジャー(以下ケアマネ)の紹介なども行っています。
「何かあってから行くところと思いがちですが、介護予防の体操教室を開催しているところもあります。また、元気なうちから話をしておくことで、いざというときにスムーズです」(田中さん)
読者の私はこうしています
自宅で暮らすにはまずは健康であることだと思っています。83歳の夫は要支援でケアマネジャーさんが訪問してくださるので、そのときに自分の体調なども話しています。(80歳・女性)
家族に伝えること
付かず離れずがいい関係を築く
正解が1つではないのが家族との付き合い方。
介護施設の施設長としていろいろな家族を見てきた田中さんは、案外ドライな家族関係の方がうまくいくと話します。
「いつも言葉数が少なく、他人から見ると仲がいいのか悪いのか分からないような親子でしたが、実はお互いのことを心配し、気遣うがゆえにドライに接している父親と娘さんがおられました。あえて距離を置く、いい関係でしたね」(田中さん)
ほどよい距離感を保ってお互いを尊重し、いざというときは見守りの目があるということが伝わっている親子関係がいいようです。
また、終活はあえてオープンに。
「例えば、エンディングノートです。子どもの帰省時に一緒に書いてみてはどうでしょう。オープンにすることで、必要なコミュニケーションが始まり、いままでできなかった具体的な話が進むこともあります」(田中さん)
読者の私はこうしています
・娘とLINEを1日1回はしています。何もない元気なときから、こう思っているなど会話をするようにしています。(65歳・女性)
・息子・娘を頼り過ぎないよう努力しています。(76歳・女性)
在宅介護
一人暮らしでも在宅介護は可能
アンケートでは、介護が必要になったら施設に入るという声が多くありましたが、在宅介護は一人暮らしでも可能です。
実際に認知症でも在宅介護で生活できている例もあります。
在宅でも使えるサービスはさまざまあるので、介護プランを作成してくれるケアマネと相談しながら自分に合ったプランを考えましょう。
在宅医や訪問看護師はケアマネに紹介してもらいます。
介護は終わりが見えないもので、長い付き合いになることも考えられるので、介護にかかわるスタッフ選びは在宅介護成功の鍵といえます。
「在宅介護を希望するなら、在宅に積極的なケアマネを選ぶこと。また、こちらの要求をなんでも聞いてくれる人は一見よさそうに思いますが、厳しいことを言ってくれる人の方が、実は親身になってくれているともいえます。コミュニケーションをしっかりとって、信頼できる人を見極めましょう」(田中さん)
《在宅介護のお金》
● 1人当たり月額平均 5万円
内訳は、デイサービスや訪問ヘルパーなど介護サービスにかかる支出が1万6000円(介護保険を限度額まで使用、介護全体の平均)。介護用品、医療費、税金・社会保険料や交通費など介護サービス以外の支出が3万4000円。ただし要介護度により金額は異なる。
出典:『在宅介護のお金と負担』(2016年調査、家計経済研究所)
一般的に施設よりも在宅介護の方が費用が安いといわれていますが、施設といっても費用はさまざま。要介護度によっても異なります。また、在宅の場合、介護費用に加えて、食費や光熱費などの生活費、交通費などの出費も頭に入れておきましょう。
《在宅介護で使える主なサービス》
●通所サービス
・通所介護(デイサービス)
・認知症対応型通所介護(認知症対応型デイサービス)
・通所リハビリテーション(デイケア)
●訪問サービス
・訪問介護
・訪問入浴介護
・訪問看護
・訪問リハビリテーション
・居宅療養管理指導
・定期巡回/随時対応型訪問介護看護
●宿泊で利用するサービス
・短期入所生活介護(ショートステイ)
その他、訪問・通所・宿泊を組み合わせたサービスや、福祉用具の提供や住宅改修のサービスなどもあり。
ご近所付き合い
お互いに頼れるご近所さんを作る
地域のつながりは、災害時に重要な役割を果たしますが、日々の生活やいざという緊急時も、いかにつながっているかがポイントになります。
「女性の方は子育てを通してなど、ご近所とのコミュニケーションがとれている方が多いのですが、男性はきっかけがあまりないようです」(田中さん)
仕事をやめた後では、社会との接点は地域コミュニティがメイン。
市区町村が主催するイベントや、町内での体操など、近隣の人との交流の場はいろいろあるはず。
また、一人暮らしになったときは、地域コミュニティが見守りの目として機能します。
さらに、社会や人とつながることは、認知症予防にも有効といわれています。
元気なうちから積極的に地域と関係を深めておきましょう。
読者の私はこうしています
近所の方とできるだけ話す機会を多くもつようにしています。毎週公民館でやっている健康体操にも参加しています。(87歳・男性)
取材・文/石井信子 イラスト/カトウミナエ