もうすぐ2020年。新しい年を迎えると、何か新しいことを始めたくなりますよね? そこでおすすめしたいのが、大人ならではの「一人旅」。好きなときに、行きたい場所へ、食べたいものを、一人で楽しむ。逆に言えば、とにかく「やりたくないことはやらなくていいという究極の自由さが魅力」だと人気旅行作家・吉田友和さんは言います。そこで、吉田さんの著書『泣かない一人旅』(ワニブックス)から、初めてでもできる「一人旅の楽しみ方とコツ」のエッセンスを連載形式でお届け。2020年は一人で大人の旅に出てみませんか?
何をするかは当日考えてもいい
旅の計画を事前にどこまで立てるべきか──。
これは人によりけりと言えるかもしれない。
僕自身は結構いい加減な性格なので、ほとんど何も決めないまま出発当日の朝を迎える、なんていうパターンも茶飯事だったりする。
けれど、同行者がいるならともかく、一人旅ならばまったく問題ない。
用意周到にプランニングしたとしても、予定通りに物事が運ばないことも多いのが旅というものだ。
天候が悪化したり、お目当ての店が混みすぎていて入れなかったり、予期せぬ展開はいくらでも起こり得る。ならば、現場判断で対応するやり方の方がしっくりくる。
最低限、現地までの移動手段と宿泊場所さえ決まっていれば、あとはなんとでもなる。
いや、場合によっては移動手段や宿泊場所でさえも当日に決めても間に合ったりする。
そのときの状況や自分の気分に合わせて臨機応変に旅を組み立てていく。
気ままな一人旅だからこそ可能な芸当だ。
どこへ行って何をするかを決めるにあたっては、まずはそこに何があるのかを調べることから始める必要があるが、これも当日でも大丈夫だ。
移動中にスマホでリサーチすればいい。それに、いざ旅立ってからの方が情報の収集意欲が高くなる。
ネット以外の情報を得る手段としては、なんだかんだ言ってもガイドブックは参考になる。
特定の情報をピンポイントで探す場合にはネットは便利だが、手がかりが何もない状態で闇雲にネットを眺めても時間の無駄だ。
主要なガイドブックはいまは電子書籍化されているので、紙ではなく電子で読むようにすると荷物にならないで済む。
ほかにも、現地に着いてから観光案内所に立ち寄るのも自分としては常套手段だ。観光地やイベントのパンフレットをもらいつつ、スタッフの方に積極的に話しかけてクチコミの知識を得る。
アナログ的な手法だが、実はネットで検索するよりも使える情報を得られることが結構多い。
状況次第ではあきらめる勇気も必要
事前にしっかり情報収集して旅プランを練るのは苦手だが、そんなものぐさな僕でも、これだけは必ず確認するというものがある。
それは、天気予報だ。なんだそんなことかと思われるかもしれないが、そんなことだからこそあえて強調しておきたい。これが超重要なのである。
行き先や目的によっては、天候は大きな意味を持つ。
たとえば、海や山といった自然がお目当てなのに、雨に降られたりしたらガッカリするだろう。
台風が接近していたり、大雪の予報が出ているところにノコノコと出かけていくのも考えものだ。
以前に長崎の教会群を観て回るという旅を敢行したのだが、そのときは朝から晩までずっと雨が降り続いて、正直へこたれそうになった。
長崎市内のメジャーな教会ではなく、わざわざレンタカーまで借りて、遠方にあるよりディープな教会を巡ろうと試みたのだ。
教会内部の見学は問題ないものの、せっかくだから壮麗な外観を拝みたいし、できれば青空をバックにした写真も撮りたかった。
ところが、傘をさしても濡れるほどの大雨である。靴もドロドロになった。すっかり意気消沈してしまい、予定を変更して途中で切り上げざるを得なかったのだ。
こればかりは運としか言いようがないが、事前に天気予報を見て想像できたことでもあった。雨が降るのを知ったうえで強行したのだ。結果、大失敗であった。
ときにはあきらめる勇気も必要──長崎での失敗体験で学んだのはそんな教訓だった。楽しみにしてきた旅行だからこそ心底悔しいのだけれど、柔軟に対応するべきだろう。
地元民オススメを最優先せよ
長崎旅行といえば、別の機会に訪れた際にもまた印象的なエピソードがあった。
世界遺産に登録された大浦天主堂の近く。修学旅行生が行き交い、異国情緒漂う、長崎市内でも屈指のヒストリカルエリアを一人で歩いていたときのことだ。
「どこへ行くの?」
すれ違った老人に唐突に声をかけられた。ラフな恰好からして、見るからに地元のおじいさんという感じ。挨拶もなく、いきなり質問されたので戸惑った。
「ええと......、グラバー園に行こうかと」
僕が正直に答えると、おじいさんはうんうんと頷き、こちらが頼んでもいないのに道案内を始めた。
「グラバー園ね、そしたらこっちへ行ってみなさい。この道をずっと進むと、エレベーターがあるから。スカイエレベーターってやつ。この先だから」
と僕を促した。親切なおじいさんなのだが、このときは僕も別に道に迷っていたわけではない。
話を聞きながら最初に思ったのは、おじいさんが教えてくれた道はグラバー園の入口があるのとは明らかに逆方向だなあということ。
それを確認しようとスマホを取り出すと、
「ああ、だめだめ。そんなの見ないで。この道をまっすぐ行けばいいから」
と、問答無用で自分のオススメコースをなぞらせようとする。
──いやはや、お節介なおじいさんだなあ。
と内心戸惑いながらも、逆らえる雰囲気でもなかったので、そのときは言われるがまま逆方向へと歩を進めたのだ。そして、これが結果的に大正解であった。
長崎は坂の街として知られ、丘陵地帯の斜面に街がつくられている。街歩きをするとなると、坂道や階段を上ったり下ったりしなければならない。
観光客からすれば新鮮な体験なのだが、住民にとっては不便なのも事実だろう。そこで、坂を上下移動するための斜行エレベーターがところどころに設置されているのだ。
おじいさんが教えてくれたのは、それらのうちのひとつだった。「スカイエレベーター」と言っていたが、正式には「グラバースカイロード」という名称。
目的地のグラバー園は広い敷地内に高低差があって、第一ゲートは最下層に位置するのだが、このスカイロードを経由することで、一気に最上層の第二ゲートへアクセスできる。
急がば回れ、という言葉の通りだったわけだが、この斜行エレベーターという代物自体が僕にとっては珍しくて、思い出深い乗車体験になった。
さらには、この話には続きがある。
エレベーターでたまたま一緒になった女性が、なんとまたしても頼んでもいないのに世話を焼いてくれた。
「あそこに見える山の上まで行くと、三百六十度の景色が見えますよ。稲佐山の上より海に近くて綺麗だから」
鍋冠山公園という、教えてもらったその展望スポットへも足を運んでみたのだが、これまた途轍もなく素晴らしいところだった。
「長崎の人はみんな親切なのだなあ......」
と感謝すると同時に、次のような旅の教訓を得た。
地元の人の言葉には耳を傾けるべし──そう胆に銘じたのだった。
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