カレー、カツレツ、トルコライス。全国のユニークな食との出会いが人生を深く豊かに/鎌田實

雑誌『毎日が発見』で連載中。医師・作家の鎌田實さんの「もっともっとおもしろく生きようよ」から、今回は鎌田さんが「食」について語ります。

 

食べ物でその土地を知る

ぼくはほぼ一年中、各地を講演で飛び回っています。新幹線に飛び乗って、講演会場まで行き、終了後は飛行機で別の会場へと移動する。そんなサーカスの綱渡りのような日々を過ごしています。

こんな生活でも、精神的に疲れないのは、各地のおいしい食と出合えるからでしょう。盛岡に行くと、冷麺やわんこそばが有名ですが、ぼくは断然、じゃじゃ麺推しです。「じゃじゃ」とは、「やあやあ、まったくもってすごいぞ」という意味とか。

小麦粉を打った太くコシの強い麺が特徴で、その上にひき肉のみそ炒めなどがどんとのっています。これを、ショウガや酢、ラー油、しょうゆ漬けのニンニクなどで食べ、最後はチータンタンというスープをかけてもらって最後まで飲み干したとき、盛岡に来たなあと実感できるのです。

 

カレーという"友"を訪ね歩く

ぼくは第5回永井隆(1908~1951年。医師で作家。長崎で被爆したが、直後から被爆者の救護にあたる。随筆『長崎の鐘』などを著した)平和記念・長崎賞を受賞したこともあってか、たびたび長崎に講演に呼ばれます。驚いたのは、トルコライスなるものとの出合いでした。

大皿の真ん中にはポークカツ、両側にスパゲティ・ナポリタン、カレー、キャベツやトマトなどがのっています。大人のお子様ランチって感じです。どのあたりがトルコなのかと、野暮なことは言いっこなし。長崎では郷土の味として親しまれているようです。

カレー好きのぼくは、カレーの食べ歩きもします。地元の茅野市(長野県)では、「ナマステ」。インド出身のオーナーシェフのカレーが絶品。ここには以前、麦わら帽子に長靴姿の菅原文太さんをご案内したことがありました。

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文太さんとは生前、いろんなお話をしました。

 

山梨県北杜(ほくと)市にある「アフガン」や、南青山(東京都)の骨董通りにある「シターラ」のカレーも大ファンです。カレーには地域色もあり、門司(もじ)港(福岡県)に行ったら焼きカレー、北海道に行ったらスープカレーがあります。特に札幌市の「らっきょ」のスープカレーは取り寄せて食べています。

 
煮カツ丼か、ソースカツ丼か

肉を薄くたたいて、パン粉をつけ、油で揚げるカツレツは、世界中にあります。カツレツという名前の由来は、フランス料理のコートレット。ヨーロッパの各地に、少しずつ形を変えた料理があります。

ぼくはチェルノブイリの子どもの医療支援にウクライナに行きますが、そこではキエフカツレツに出合いました。イタリア系列のカツレツは、飯倉片町(東京都)にあるイタリア料理店「キャンティ」で味わえます。

トンカツでおいしいのは、目黒駅(東京都)近くにある「とんき」というトンカツ屋です。料理人たちが調理する様子を見渡すことができ、その洗練された動きにほれぼれします。

こうやってカツの話を書いていると、なんだかソースカツ丼が食べたくなってきます。カツ丼というと、煮カツ丼を指すところが多いようですが、駒ヶ根市(長野県)や桐生市(群馬県)など地域によってはソースカツ丼のほうがメジャーなところがあります。ぼくは断然、ソースカツ丼派です。

福井市の「ヨーロッパ軒」はソースカツ丼の有名店で、行列が絶えません。並ぶのが嫌いなぼくは、泣く泣く断念しています。今年は、住民の健康づくりのため、西会津町(福島県)に年に何回か足を運ぶ計画をしていますが、会津のソースカツ丼を楽しみにしています。

 
食のプロから学ぶ醍醐味

日本の魅力の一つは、港町に行けば、それぞれおいしいすし屋があること。東京ではあまり見たことがないような地元の魚に出合ったりすると、旅心をくすぐられます。

カウンターを挟んで、職人と対面すると、食に対するポリシーだけでなく、生き様や人となりが感じ取れるような気がします。ぼくは医者にならなかったら、すし職人になりたいと思っていた時期がありました。感動や満足を、すしという形にして、客人をもてなす真剣勝負にあこがれたのです。

神宮前(東京都)の「おけいすし」の親方は、まさに舞台役者のような構えで、感動的なパフォーマンスを見せてくれます。たとえば、マグロのトロの先端部の炙り、大量のわさびを効かせた中落ちの握り、横隔膜に一味唐辛子を塗り付けて焼いたもの、マグロの内臓の酒盗、マグロの皮のゆがき...マグロだけでこんなにも多様な食べ方をさせてくれるのです。

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人生を豊かにしてくれる食の達人・おけいすしの親方。

なぜ、この順番で食べるのか、何がうまいのか、どうやって仕込んだのか。食の達人から教えてもらえることは、本を読んで知識を増やすのと同じように、人生を豊かにしてくれると思います。

 

人生の経験が、食を味わい深くする

東日本大震災後、ぼくは支援のため福島に通ってきました。たまたま避難先で双葉食堂の女将さんと知り合い、店の再開に迷う女将さんに、「お店を再開して、被災した人たちが働ける場をつくってください」と話しました。

南相馬市の小高駅の近くで再開した双葉食堂は、被災地の心の"灯台"のようでした。「あの店に行けば、ふるさとのだれかと会える」、そんな思いで、ラーメンを食べに来る人も多いと聞きます。ぼくも、この近くに行くと必ず双葉食堂でラーメンを食べます。おいしいのはもちろんですが、一杯のラーメンの背景に、復興を目指す女将さんの心意気や、それを応援するたくさんの人たちの思いを感じ、心が元気になるのです。

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避難指示も解除となり、元の場所で双葉食堂のラーメンを味わえます。

食は、人生を豊かにし、人生経験は食の味わい方を深めてくれます。だからこそ、ぼくは食べることを大切にしたいと思っています。

 

 

鎌田 實(かまた・みのる)さん

1948 年生まれ。医師、作家、諏訪中央病院名誉院長。チェルノブイリ、イラクへの医療支援、東日本大震災被災地支援などに取り組んでいる。『だまされない』(KADOKAWA)など著書多数。

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この記事は『毎日が発見』2019年3月号に掲載の情報です。
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