2018年12月公開の映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』に出演している綾戸智恵さん。筋ジストロフィーという体の自由が制限されていく難病を患いながら、自宅でボランティアの人たちと自立生活を送った鹿野靖明さんの実話を基にした映画で、綾戸さんは彼のお母さんである鹿野光枝役を演じています。役柄や心に残る作品などについて、思いなどをお聞きしました。
「実際のお母さんにもお会いしましたよ。大胆不敵ですてきな女性でした。私とは違うタイプやけど、一つだけ一緒なのはネバーギブアップという信念。母親というのは、情けない娘が強くなった姿。映画だと描かれている時期のその人しか見えないけれど、いまの立派なお母さんだけでなく、頼りない娘だった頃もあることを匂わせられたらいいなと思いました」
ボランティアの人たちと強い絆を築いていく鹿野さんの姿勢に、人間関係における大事なことを教えられます。
「私の母が『自立というのは自分でご飯を食べることやなく、人と関わって生きて、死んだときに惜しいと思われることや』と。鹿野さんには夜中でも『バナナが食べたい』と言ったら、『ええよ』とかなえてくれる仲間を得ていく力がある。これが自立なんですね。対人関係の中で、どれだけ強い絆を育めるか。きっと鹿野さんは、自由に動かん体で人としてどう自立していくか、親にかわいそうな体だと思われんようにどう人生を謳歌するか。そこを考えはったんやと思いますね」
映画が大好きだという綾戸さん。「とても1本には絞れない」と言いながら、思い出の作品を挙げてくれました。
「勝新太郎さんの『座頭市』(※注:1962年に第1作が製作された、勝新太郎主演の時代劇映画シリーズ。盲目の主人公"市"が早業で悪を斬る)を公開時に見たんです。10歳の私には娯楽作に思えて物まねしたりしてたけれど、いま見ると座頭市は偉い男やなと思う。闇の中でしか生きられない人やけど、"俺にもできることがある"と生きている。"何でもネバーギブアップや"ということをあの人は言いたかったのかな。
座頭市が女性にほれられるシーンもあるやん。でもキスまではいかない。あれは性(さが)やな(笑)」
気に入った映画は、何度も見るそう。
「『座頭市』も4回見ましたよ。人間、年を取るから偉いんじゃないねんな。昔見た映画をもう一度見たときに、やっと成長が分かるんです。
60歳なんてまだまだ。80歳になったら、60歳はアホやったと思うかもしれん(笑)。おかげさまで、この業界で20年になるけれど、そんなの意味ないわ。空気吸うて生きて、オナラして20年や(笑)。私は大人になってからのデビューで良かったですね。いまでもアホやのに、20歳でデビューしてたら、きっと25歳ぐらいで終わっとるわ(笑)」
綾戸さんの人柄がにじみ出ているお母さん役。ぜひ映画館でお楽しみください。
綾戸智恵さん出演映画 全国公開中
『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』
鹿野さん役は大泉洋さん。ボランティア役で高畑充希さん、三浦春馬さんが出演。父親役は竜雷太さん。
©2018「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」製作委員会
取材・文/多賀谷浩子