年を重ねていく上での変化との向き合い方
――長いキャリアを経て、心と体の変化はありましたか。
実は心臓がね、ちょっと心配だったことがあるんです。
コロナ禍の21年に『ガラスの動物園』という作品で、お母さん役をしたのですが、セリフの量がとにかく多くて...。
緊張と責任のなか、稽古ではマスクをしたままで大量のセリフを言わなければならず、その息苦しさもあって、自分の出番になると心臓の鼓動がタタタタタタタ!と速くなり不安になりました。
一度心臓の鼓動を意識し始めると、鼓動が鼓動を追いかけるようにどんどん速くなっていく感じがして、とても怖かった。
落ち着いてから大きな病院に行って診てもらったのですが、心臓の診断が難しいのは、症状が出たそのときでないと分からない、ということ。
なので症状が出たらすぐ診てもらえるように、近所の良い先生を紹介してもらいました。
それがたまたま私の家の隣だったのですぐ伺ったんですけど、多分ストレスが原因だろうと...。
先生は、どんなストレスか分からないけれど、精神安定剤を半錠飲んでごらんって。
小さい錠剤なのですが、常用すると癖になって効かなくなると聞いたことがあるので、肝心なときだけ、飲むことにしました。
そうしたら症状が治まったんですよ。
神経を使う公演のときはいまもそうしていますが、安定しているようです。
鼓動がいつもより速いなと感じたら、血圧と脈が家でも簡単に分かる血圧計で測ってみるんです。
すると何でもないのよね。
やっぱり気持ちの問題なのね、って安心できる。
人って、ちょっとしたストレスは見過ごそうとしてしまうことが多いと思うのですが、それが怖いの。
たまったストレスがどんどん大きくなってしまうと、心と体が支えきれなくなって、負担が症状として表れるんだなと思いました。
若い頃は思わなかったんですが、自分が70代になって、人生100年時代に感じることは、お元気な方は頭がしっかりされているな、ということ。
こればかりは神様から授かるものですが、せめて朝起きたらストレッチしたり、発声をしたりするのを習慣に、あとは程よい睡眠、食事、運動を普段から心がけたいと思っています。
でも、老化現象は当然起こるものです。
この前も(演出家の)熊林弘高さんの新作の脚本を読んでいる間、ずっと同じ姿勢で座っていたら、軽いぎっくり腰になってしまって。
若い頃は筋肉がやわらかいし強いから座りっぱなしでも問題ないですが、年齢を重ねると、良くないのね。
ぎっくり腰は安静第一、痛くない程度にストレッチをしています。
そういうちょっとした故障は、どうしたってあるじゃない?
毛布が足に引っかかって、あ、嫌な感じ...と思ったら、足がつってしまうこともあるしね。
そうしたらテレビで足つり防止には貧乏ゆすりがいい!ってやってました。
昔は"みっともない、いい家の子はそういうことしない"って怒られましたけれどね。
10回1セットを3~5回、あとはふくらはぎをちょっと揺らしてあげる。
簡単な方法で良いでしょう?
人前ではしないほうがいいと思うけれど(笑)。
もう50年ぐらい、この生活をしていますけれど、舞台に立つというのは喜びと苦しみが表裏一体なんです。
生みの苦しみですよね。
それが私たち舞台に立つ人の人生なのだと思います。
でも、本番が開いてからはお客様という強い味方がいますから。
『アナスタシア』もお客様がミュージカルに慣れていらっしゃるから、会場の熱気がすごいんです。
私が演じるのはマリア皇太后という実在した女性。
孫のアナスタシアを想う役ですが、滅亡してしまったロマノフ王朝の皇太后ですから、エリザベス1世やメアリー・ステュアートよりは、もっとやさしい感じ。
でも、芯の強さがあるのね。
衣装もすてきなので、きっと楽しんでいただけると思います。
ロシア革命を背景にした話ですが、実は同じ題材を1980年代に宝塚でやっているんですよ、縁があるのでしょうか。
今度こそ、この舞台は携わる皆さん全員で千秋楽を迎えたいと思います。
取材・文/多賀谷浩子 撮影/吉原朱美