映画『魔女の香水』は、香水が縁を結んだ2人の女性の物語。黒木瞳さんは、将来への希望を失った若い女性・恵麻の成長を見守る香水店の経営者・弥生を演じ、スクリーンに気品と神秘性を漂わせています。
ボーダーワンピース/ASPESI(トヨダトレーディングプレスルーム)
ピアス、ネックレス/VENDOME AOYAMA (ヴァンドーム青山本店)
―― 出演を決められたのは?
20代の頃にパトリック・ジュースキントの小説『香水 ある人殺しの物語』を読んでから、香水が大好きになり、調香師にも興味を持っていました。
たぶん香水をテーマにしたものって、邦画では初めてですよね。
しかもオリジナルの脚本ですから、面白いと思いました。
脚本は完成まで何稿も重ねていくのですが、その途中で何度か意見交換もさせていただきました。
例えば、恵麻が恋人・蓮との関係が壊れてすごく落ち込む。
その姿に弥生が自分の過去の愛を重ね合わせるのですが、恵麻と蓮が本当に愛し合っていないと"思いを重ねる"ことに説得力がない。
そこで、そう感じられるような表現はどんなものか、一緒に考え、より共感が得られるものができあがったと感じています。
――"白髪の魔女"と称されるファンタジー要素と、切ない愛を経験した女性のリアリティ。そのバランスが絶妙です。
最初に宮武由衣監督のなかには別のイメージがあったようです。
『101匹わんちゃん』を実写化した『101』(1996年)でグレン・クローズが演じたクルエラみたいな感じ?
でもちょっとアニメ寄りなイメージかなと思い、もう少しリアリティが欲しいということは提案いたしました。
髪形や衣装によって気持ちが変わりますから。
ですので今回は容姿にすごく助けられました。
―― 弥生は、女性が人生に行き詰まったときに指針となる名言を幾つも言います。ご自身で共感したセリフなどは?
共感というより「なるほどなぁ」と感心して、セリフを言いながら自分にも言い聞かせていました(笑)。
「価値なんか、つけられるより、つけなさい」というのも、言えたらかっこいいだろうとは思いますが、私だったら言えませんもの。
弥生という人はすごくかっこいい人だろうなと思ってしまいます。
―― 多くの女性が憧れている、黒木さんでも?
言えませんよ。
だって「変えられるのは自分だけ」というのも、弥生だからこそ言える。
私としては、それが言えるかっこいい大人になりたいという思いのほうが、強いですね。
―― 監督業にも進出して、ご自分の歩む道を大きく変えてこられましたね。
たまたまですよ。
初監督の『嫌な女』(2016年)は小説を読んで、映画にしたら面白いだろうな、と思ったのがきっかけです。
あくまで演じたかっただけですが、いろいろなプロセスの中で、スタッフがぽろりと「作品を一番良く知っているのは黒木さんだから、監督をすれば?」と。
それですごく悩んで、夫に相談したら「リスクを負うことはない。僕は反対。でも、あの人にも相談してみたら」と言われて。
"あの人"というのは、昔から人生の節目で相談をしている方なんですけど、その方も最初は「守りに入れ」と言っていたのですが、最後に「昨日と違う景色、今日の景色が見たかったら一歩前に進め」と。
私としたら「どっちやねん!」って(笑)。
そうこうしているうちに結局、やることに。
長編2作目の『十二単衣を着た悪魔』(20年)も、前作と同じように小説を読んで映画にしたいと思って始めたことです。
短編も2作手がけていますが、全て偶然の出会いが重なって、そうなっただけなんです。
―― しとやかな淑女のイメージの強い黒木さんですが、じつは"男前"。心身ともに健やかな空気が漂っています。
いえ、そんなことはないです。
気は小さいし、すぐ落ち込みますし、反省魔だし...。
監督作なんて、見るのも恥ずかしいくらいなんです。
女優は役になりきって演じているから平気ですけど、自分の思いを全て注ぎ込んだ監督作には"私の素"が出ているから、冷静に見られないくらいです。
でも、先のことを悩んだり、考えたりはしないタイプで、仕事が入ってないから不安...みたいな危機感は、ちょっと薄いんです。
ただ、やっぱりエンターテインメントが大好きなので、演者でも監督でも、どんな形でもみんなに支えてもらいながら、ずっと続けていきたいですね。
取材・文/金子裕子 撮影/吉原朱美 ヘアメイク/在間亜希子(MARVEE) スタイリスト/大迫靖秀