世界的に熱狂的なファンを持つアニメーション作品『エヴァンゲリオン』が、ベルギーのダンサー・振付家・演出家であるシディ・ラルビ・シェルカウイさんの演出により、新たなエンタテインメントとして舞台化されます。もともと原作となるアニメ作品が好きだったという出演者の田中哲司さんにお話を伺いました。
舞台ならではの『エヴァンゲリオン』
――『エヴァンゲリオン』を舞台にするなんて、すごい挑戦だと思いました。
アニメだから表現できるところも多い作品ですから。
ただ、シェルカウイさんが過去に演出された舞台『プルートゥ PULUTO』を拝見した時に、複雑な要素を魅力的に整理して見せるのが巧い方だったので、彼なら可能なのではないかと。
稽古が始まりましたが、原作の壮大なロボットを舞台でどう表現するかと思っていたら、そうきたか!とドキッとしました。
演劇ならではのアナログな手法で見せられることが心強いですね。
原作に惹かれるのは、これまでのヒーロー像にはありえない人間的な弱さが描かれているところ。
その描写がすごくて、圧倒されます。
やっぱり庵野秀明さんは天才だなと思いました。
そういうところに影響を受けた作品が、『エヴァンゲリオン』以降、色々生まれていますよね。
その点でも画期的な作品になるので、どんな舞台になるのか、大人の方々にもご覧いただけたらと思います。
仕事を決める時は母親のことを考えます
――年齢や経験を重ねられて、変化したことを伺えますか?
僕は子どもが小さいので、いきなり何ですが、死を考えてしまうんですよ、この子たちが20歳になる時、生きていられるかなと思うと、寝顔を見ながら、悲しくなってしまう時があります。
一日一日を大切にという思いで子どもと接しています。
暗い話になりましたけど(笑)、やり残したことを徐々にやり始めているところはありますね。
例えば、もともとバイクに乗っていたのですが、車に乗り始めた時にやめたんです。
でも、やっぱり最後に乗りたいなと。
最後に何々したいという発想になってきていますね。
だからバイクも買って、興味のあることは全部やっていきたいんです。
そうしたら、バイクの話に感化されて、役者の先輩が70代でペーパードライバーを返上して「怖いけど、楽しいよ」って。
すごいですよね。
いつか、と思いながらやっていなかったことも後悔しないように全部やりたい。
そこに尽きますね。
年齢との向き合い方でいうと、例えば、白髪をどうするとかでしょうかね。
今は別の仕事で役のために目立たなくしていますが、僕自身は抗わなくていいと思っています。
だから、狭間というか、おじいちゃんではないけれど、おじいちゃん予備軍みたいな。
そこで何かに気をつけたりということはないですが、台詞を覚える時に歩いて覚えるので、それが自然と運動になっていて。
脳科学の先生がおっしゃっていましたが、何かをしながらというのが良いらしいです。
ひとつのことに集中しないというのがコツで、その方が頭に入るんですよ。
何かにフォーカスしすぎず、いい距離感で向き合うというのは結構いろいろなことにあてはまりそうな気がします。
――今だからこその親御さんとの関係性も変化しましたか。
仕事を決める時は3分の1ぐらい母親のことを考えます。
例えば、朝ドラなら、母も観られるなとか。
90歳と高齢なので。
電話で話せれば、安心できますが、妻のお祖母さんとうちの母が同じぐらいの年なので、1年に1回は孫を見せるようにしています。
若い頃は人並みに苦労もかけたから、母には人生の大切な時間をできるだけ幸せに過ごしてもらいたい。
出来ることは何でもしてあげたいと思います。
取材・文/多賀谷法子 撮影/齋藤ジン