心を物や景に感情を託して俳句を詠む。初めて作る俳句「四時限目」

季語と情景などを17音に込める、日本独特の「俳句」。作ってみたいという人は多いでしょうが、その成り立ちや作り方やルールなど知らないことは多いですね。本誌連載でおなじみの対馬康子さんに「初めて作る俳句」について教えてもらいました。

【前回】季語と切れ字を考えて春を読む!初めて作る俳句「二時限目、三時限目」

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【四時限目】感情を言葉にのせる


蝶結びほどけば幾千万の蝶   対馬康子

梨の花郵便局で日が暮れる   有馬朗人(あきと)

鞦韆(しゅうせん)は漕ぐべし愛は奪ふべし   三橋鷹女(みつはしたかじょ)

春干潟生くるものみな砂色に  中島斌雄(たけお)


俳句の型を覚えたら、ここではさらに俳句の奥深い世界へ足を踏み入れてみましょう。

俳句は、心を詠むもの、抒情詩です。

心を前面に出すのではなく、物や景に託して詠みます。

一見、情景だけのように思える句でも、作者の感情が託されているのです。

「蝶結び~」は、リボンを手でほどくとたちまち一面に数多(あまた)の蝶が飛び出してきたようなよろこび。

目の前のことから華やかな幻想へと広げています。

「梨の花~」は、一日の仕事の終わり。

暮れなずむ小さな町の郵便局の灯りのように梨の花が郷愁を誘います。

日常の何気ない一コマが大切にされていることが伝わってきますね。

直接的な言葉を使わなくても、うれしさや悲しさを表現できるのです。

しかし、何に託すか、どう託すか、初心者にはアプローチが難しいところです。

そこでおすすめしたいのが、名句を知って好きな句を見つけることです。

やわらかなもの、現代的なもの、いろいろなタイプの俳句があるので、好きな句を見つけると、自分が目指す句が明確になって作りやすくなります。

私自身も、好きな句に出合ったことが俳句を始めるきっかけになりました。

そのうちの一つ「春干潟~」は、潮が引いた干潟を歩き、足元に動く小さな生き物たちの営みを「砂色」ととらえているところに湧き出る詩情を感じました。

「鞦韆は~」は、古い俳句のイメージを覆す「愛は奪ふべし」という言葉に驚き、俳句とはわがままに詠んでいいのだと感じました。

そして好きな句を覚え、まねることから始めるのも上達の一つの方法です。

例えば、芭蕉の「さまざまの事思ひ出す桜かな」をベースに、「さまざまな音の消えゆく春の星」と詠むことができます。

まねるうちに自分流のパターンを見出すことがあり、それが口ずさむように出てくることもあるのです。

また、暮らしの中で、句帳に景を言葉でスケッチしてみましょう。

一期一会の景にこそ真情が伴います。

紫陽花をかき分けたら暗かった、道端に何かが落ちていた...と心が動いた景を書き留め、後から句にまとめます。

俳句はその人そのものであり、正解はありません。

いい俳句、点数の高い俳句ではなく、"自分らしい俳句"を楽しんでください。

句会に参加して仲間を作りましょう

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作句(さっく)に慣れてきたら、句会に参加してみませんか。

句会は参加者が句を持ち寄り、互いに選句や講評などをする場所。

勉強になるのはもちろん、人との交流が生まれ、俳句仲間ができることも大きな魅力です。

仲間ができたら皆で俳句を詠む旅「吟行」(ぎんこう)に出かければ、知的で有意義な時間を共有することができます。

私は家族みんなで俳句を楽しんでいます。

散歩をしながら作句し合ったり、集まって読み上げて褒め合ったり(笑)。

後からその句を見たときに、あぁこうだったなぁって、思い出になるのです。

一人で作句するのももちろんよいのですが、ご友人など周りの方を巻き込んでやるとさらに楽しいですよ。

句会は地域やカルチャースクールのほか、俳句結社が主催するものなど全国各地で催されています。

俳句結社とは、師のもとで俳誌の出版や句会を行う団体のことです。

例えば私が会長を務める「麦」(詳細は欄外参照)では、会員は毎月私が選者を務めるコーナーや誌上句会に参加できるほか、吟行会なども開催しています。

俳誌は、月刊俳句総合誌『俳句』(KADOKAWA)や『NHK俳句』(NHK出版)などの専門誌、インターネットなどに案内が出ています。

見本誌を取り寄せて、好みの俳誌を見つけましょう。

《季語を調べる》

俳句の四季は旧暦で考えられています。

春は立春、夏は立夏、秋は立秋、冬は立冬が始まりです。

そして季語の数は現在5000を超えるといわれています。

膨大な季語を調べるのに役立つのが「歳時記」。

歳時記とは季語を時候、天象、年中行事、生活などに分類し、解説や例句を加えた書物、いわば季語の辞典です。

何千もの季語を収録しているもの、季節ごとの分冊タイプ、ベーシックな季語をイメージ写真とともに解説するものなど、さまざまなタイプの歳時記が発行されています。

作句するときだけでなく、句を鑑賞する際に知らない季語を調べたり、ハンディタイプを持ち歩いて外出先や吟行で気になる言葉を調べたりと便利です。

いつでも手元に置き、意味を理解して使える季語の数が増えれば、俳句をぐっと身近に感じられます。


新版 角川俳句大歳時記
春・夏・秋・冬・新年

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圧倒的な季語数・例句数を誇る歳時記の最高峰。
定価:各5,995円(本体5,450円+税)
判型:A5判(KADOKAWA)

俳句歳時記 第五版 
春・夏・秋・冬・新年

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定価:各616円(本体560円+税)
判型:文庫判(KADOKAWA・角川ソフィア文庫)

※写真は「春」ですが、「合本」以外は「夏」「秋」「冬」「新年」があります。

合本俳句歳時記 
第五版 [大活字版]

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読みやすい必携の合本版!
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判型:B6判(KADOKAWA)


取材・文/岸上佳緒里 イラスト/山村真代

 

対馬康子(つしま・やすこ)先生

1953年香川県高松市生まれ。73年中島斌雄主宰「麦」入会、90年有馬朗人主宰「天為」創刊に参画。「麦」会長、「天為」最高顧問、現代俳句協会副会長。荒川区国際交流協会理事長。

月刊俳誌『麦』は、誌友会費:半年6,000円、1年12,000円。見本誌送付(無料)や入会の問い合わせは、麦の会ホームページへ。

この記事は『毎日が発見』2023年3月号に掲載の情報です。

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