「季語」と「切れ字」を考えて春を詠む! 初めて作る俳句「二時限目、三時限目」

季語と情景などを17音に込める、日本独特の「俳句」。作ってみたいという人は多いでしょうが、その成り立ちや作り方やルールなど知らないことは多いですね。本誌連載でおなじみの対馬康子さんに「初めて作る俳句」について教えてもらいました。

【前回】見る、触れる、耳をすます...考えすぎずに感じたことを素直に詠む、初めて作る俳句「一時限目」

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春 この季節を詠む

【二時限目】上五を季語にしてみる

春の季語
うぐいす
梅の花
陽炎(かげろう)
花筏(はないかだ)
春の星
春の宵

6つの春の季語から、好きな季語を上五に置いて詠んでみましょう。

日本では古くから四季の移ろいが大切にされ、季語は読む人に共通のイメージを与え、思いを代弁してくれる大切な言葉です。

ただし、季語そのものを詠もうとすると難しく感じてしまいます。

まずは季語をイメージとしてとらえ、目の前にある全く違うものと取り合わせて作るのも一つの方法です。

例えば、いま、目の前にペットボトルがあるとします。

「花筏ペットボトルのひしゃぐ音」でも俳句となります。

名句を鑑賞しながら、Kさん、Gさんにも詠んでもらいましょう。


【名句】

鶯(うぐいす)の声遠き日も暮れにけり 与謝蕪村

春宵や駅の時計の五分経ち 中村汀女(ていじょ)


解説

鶯の声を聞くと、春だなあと実感します。

別名・春告鳥です。

姿は見えないがどこからか届くのどかな鳴き声を聴いているうちに、いつのまにか今日という日が暮れてしまった。

蕪村の句は鶯の声の明るさを遠くに、一日が終わってゆくことのふとした春愁を感じます。

厚いコートもいらなくなった春の宵。

宵は夜の初めの時間です。

汀女の句は仕事帰りの恋人との待ち合わせでしょうか、駅の時計を何度も見ています。

まだ5分しかたっていません。

早く来ないかなという気持ちのはやる5分です。

【生徒Kの句】

春の星夜明けの道に息上がり

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梅の花ランチタイムとコーヒーと

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【生徒Gの句】

梅の花角を曲がりて匂い立つ

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花筏散りて集まり流れけり

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講評と添削

「春の星」は夏空と違い潤んで柔らかく見えます。

Kさんが詠んだのは春寒い夜明けの山を登り、息を吐きながら星を見上げている様子とのこと。

「息上がり」だとつらそうに感じてしまうので、「山を我行く」で山を歩いていることを素直に表し、「春の星山を我行く夜明けかな」。

春といえば桜より梅であるほど、古(いにしえ)より多く詠まれてきた季語「梅の花」。

Kさんは取り合わせで一句にしていますね。

「コーヒー」は色が強いので「カフェオーレ」にして春の淡さを表現します。

「梅の花ランチタイムとカフェオーレ」。

Gさんの句は、近所の角を曲がるとある梅の木。

素直に詠めてとてもよいですね。

ふわっと香る感じが「匂い立つ」に表れています。

「花筏」は散った桜が水面を流れる様を筏に見立てている季語。

Gさんは桜の名所である東京・神田川をイメージしたそう。

「流れけり」でもいいのですが、花びらが流れていった様子だけになるので、心の内を表現する言葉を添えるとグッとよくなります。

「花筏めぐり会ひては流れけり」。

【三時限目】切れ字を覚えましょう

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五七五の句の途中に意味上の切れ目がない句とある句があります。

例えば「春の雪/青菜をゆでてゐたる間も 細見綾子」は、「/」の部分が切れです。

切れることで世界が思いがけないところへ広がっていく、ここに俳句の面白さがあります。

切れ字は句切れに使い、主なものは「や」「かな」「けり」の3つ。

いずれも詠嘆を表します。

切れ字は基本的に1句に1つにしましょう。

古池や蛙飛び込む水の音 松尾芭蕉

「や」

名詞、動詞などどんな言葉にも付けられ、句の途中(上五・中七)に用いることで、直前の言葉を強調し余韻をもたせながら句の意味を切ります。

「古池に」でも「古池の」でもなく、「や」で古池に強い焦点を当て、「古池がありますよ」と一つの世界に。

蛙が飛び込むと続くことで、その景がより鮮やかに浮かびます。

また、「啓蟄(けいちつ)や豆を煮るとて落し蓋 鈴木真砂女(まさじょ)」のように「や」の下に続く場面を大きく変化させることができます。

さまざまの事思ひ出す桜かな 松尾芭蕉

「かな」

句の最後(下五)に用いられることが多く、「~なことだなぁ」と、やわらかな詠嘆の意になります。

若き日に仕えた家を訪れた芭蕉は桜を見て「いろいろなことが思い出される」と旧主を偲んでいます。

「桜かな」のように名詞、または「なりしかな」「出でしかな」のように活用語の連体形に付くのがルールです。

「けり」と似ていますが、「かな」の方が、いまの感情を表します。

赤い椿白い椿と落ちにけり 河東碧梧桐(かわひがしへきごとう)

「けり」

「かな」と同様に、主に下五に用いて詠嘆を表します。

赤と白の鮮やかな椿が地面にぽたりぽたりと落ちている様に美しさを見出し、心が動いているのです。

驚きや気付きのニュアンスが強くなります。

「けり」は過去を示すことにも用いられるため「~だったなぁ」という意味を表すことも。

「映しけり」「歩きけり」など活用語の連用形に付くのがルール。

「や」「かな」のように名詞には付きません。

取材・文/岸上佳緒里 イラスト/山村真代 撮影/松本順子

 

対馬康子(つしま・やすこ)先生

1953年香川県高松市生まれ。73年中島斌雄主宰「麦」入会、90年有馬朗人主宰「天為」創刊に参画。「麦」会長、「天為」最高顧問、現代俳句協会副会長。荒川区国際交流協会理事長。

この記事は『毎日が発見』2023年3月号に掲載の情報です。

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