「さまざまの事思ひ出す桜かな」/井上弘美先生と句から学ぶ俳句

pixta_12030424_S.jpg井上弘美先生に学ぶ、旬の俳句。3月は「動かない季語」というテーマでご紹介します。

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さまざまの事思ひ出す桜かな 芭蕉

桜は王朝時代から、日本の美を代表する景物として脈々と詩歌に詠まれてきました。
芭蕉がこの句を詠んだのは元禄元(一六八八)年、四十五歳の時です。若き日に仕えた藤堂家に招かれて、二十年前を偲んで詠みました。芭蕉に俳諧を教えた藤堂蝉吟は若くして逝去。旧主への溢れるような懐かしさを素直に詠んだ句ですが、「桜」が決め手で、他の季語には置き換えられません。「桜」には過去を呼び起こす力があるのでしょう。万人の共感を呼ぶ名句と言えます。

芭蕉は元禄七(一六九四)年、五十一歳で亡くなります。

 

燕よく見ゆる窓辺に手術待つ 岩田由美

「燕」は春の季語。三、四月に南国から飛来します。
この句は「手術待つ」とあるので、病院で詠まれた句だとわかります。さまざまな検査が終わって、後は手術を待つばかりの病室から、飛翔する「燕」の様子がよく見えているのです。白い病室に身を横たえて、手術の不安に耐えている作者にとって、海を渡って来た「燕」の存在は、命の躍動感そのものでしょう。「燕」に勇気を貰っていることが感じられるのは季語の効果。「燕」は動きません。

作者は昭和三十六(一九六一)年、岡山県生まれ。最新句集『雲なつかし』よりの一句です。

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<教えてくれた人>
井上弘美(いのうえ・ひろみ)先生

1953年、京都市生まれ。「汀」主宰。「泉」同人。俳人協会評議員。「朝日新聞」京都版俳壇選者。

この記事は『毎日が発見』2018年3月号に掲載の情報です。
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