今年も1月19日NHK総合で「NHK全国短歌大会」が開催されました。2月にはNHK Eテレでも模様が放映され、目にした方が多いと思います。応募された作品は題詠と自由詠合わせて約2万首ですから大変な数です。18名の選者(私もその一人)には、一次予選を通過した数千首が送られてきます。この中から特選・秀作・佳作を選者は選びます。題詠の部の特選をいくつか紹介します。今年の題は「天」でした。
天からの授かりものである
きみはまだ
人よりも雲に似ている
埼玉県 関根裕治
この一首は小島ゆかり氏と佐伯裕子氏の2人が選びました。赤ちゃんを「天からの授かりもの」とはよく言いますが、その赤ちゃんが人よりも天の「雲に似ている」の表現が非常に新鮮ですね。小島氏は「ふっくらと白くはかない」赤ちゃんのイメージを、見事に歌っていると評しました。
好好爺(こうこうや)を
すきすきじいと孫は読む
気持にまっすぐ天晴(あっぱれ)なよみ
神奈川県 岩﨑幸子
池田はるみ氏が選んだ作品です。孫は「好好爺」をまちがって読んだのでしょう。おじいちゃん好きの孫ならではのまちがいを作者は「天晴なよみ」と喜んでいます。とてもユーモアがある歌ですね。
いまはもう誰も住まない
ふるさとの明日の天気を
見てから眠る
神奈川県 杉本恭子
大島史洋氏が選んだ作品です。ふるさとを慕い思う気持ちがよく出ています。ふるさとを離れて生活している人は共感すると思います。
うんち出たと
おまる抱えて来たる子と
天に向かって万歳をする
宮崎県 兒玉瑛子
私の選んだ作品です。親子間の情愛が楽しく伝わりました。
<伊藤先生の今月の徒然紀行>
宮崎県立美術館で、1月11日から10日間にわたって書展「若山牧水没後90年記念 榎倉香邨(こうそん)の書―ふるさと―」が開かれました。榎倉香邨氏は兵庫県生まれで、現在95歳の現役の書家です。日展審査員を長く務め、1996年には日本芸術院賞を受賞していますが、その後も自分の世界をさらに深める仕事に励んでいます。榎倉氏の個展が宮崎で開催できたのは、氏が牧水短歌に大きな魅力を感じて、このところ牧水の歌を書き続けているからです。私は〈たましひを 線となし行となし たまふ榎倉香邨の書〉という歌を詠んだことがありますが(『光の庭』所収)、榎倉氏の作品に感銘しました。