「いちばんつらかったのは...」天童よしみさんが語る過去と、「人生100年時代」の未来

運命の曲との出合いと父との別れ

――教えながら時代をつかんでいったのですね。

歌謡教室の生徒さんがスナックで歌っていたあるとき、その店にレコード会社の方がいたんです。

「誰かに習ってるの? 天童さん? すぐ会わせてほしい」と。

それがいまのレコード会社、テイチクエンタテインメントの部長なんです。

それで「よしみちゃんを探していたんだ。この曲は天童よしみしか歌えない」と、運命の曲「道頓堀人情(どうとんぼりにんじょう)」と出合いました。

デビューしてから13年後のことでした。

私の人生は、あきらめないということなんですよ。

しぶとく生きる、これですね。

いつまでもこだわっていてもしょうがないけれど、前にも進めない、そんなときもありますよ。

けれど、こうと決めたらあきらめない。

何としてでも手に入れる。

そういう覚悟を持たないと、歌っていけないと思います。

もちろん気持ちが弱るときもあります。

いちばんつらかったのは、元気だった父が亡くなったこと。

母も2度足のケガをして、いまは歩けないんです。

それでも一歩でも歩くという強い気持ちを持って、決して腐らない。

だから私も「私が母の足になる」と決めて、2人で頑張っています。

――お仕事を続けながらの介護ですね。

大事にしているのは、ほんの少しの時間でも、母を安心させてあげること。

母は私の姿が見えないと不安になってくるみたいなので、時間がないときは、たとえ10分でも、母の足をマッサージしながら、「今日は何かあった?」と会話するようにしています。

母は入院中もちゃんとメイクするんですよ。

そんなところを見習いたいなと思いますね。

もちろん私も健康を心がけてお風呂で歌ってます(笑)。

ゆっくり湯船に浸かって歌うのが毎日の楽しみです。

民謡からドリフの「いい湯だな」まで何でも歌います。

息もいっぱい吸えるし、湯気で粘膜がなめらかになって無理なく発声できますから。

私の歌はお風呂で作られているんです。

まさに湯道ですね。

お湯ってありがたいですよね。

生まれて産湯に浸かり、最期はお湯で洗ってお別れする。

人生に欠かせないもので、この映画とご縁があってから、お風呂のお湯がとても大切に思えるようにもなりました。

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「私の部屋は1階なのですが、わざと2階に必要なものを置いて、家の中を上がったり下がったりしています。外で走ったりはしないですが、手軽な健康法です」

――"湯道"以外の健康法はありますか?

皆さんそうだと思うのですが、朝起きて調子のいい日もあれば、今日はちょっとという日もありますよね。

気を付けているのは、疲れたなと思ったら、15分でもいいから休むこと。

自分の両腕を交差して二の腕をさすると、なぜかホッとして、短時間でもよく眠れますよ。

コロナ禍は皆マスクで目に疲れが集中しますから、15分目を閉じて眠るだけでも違うと思います。

それと、あまり先を心配しないこと。

皆さんよく断捨離の話をしますが、私はこれまでの衣装が800枚ぐらいあって、どれも思い出があり、とても断捨離なんてできないんです。

そんなこと考えても、元気出ないですよね。

私がいなくなったら、そのときはそのときで誰かどうぞよろしくお願いしますという気持ちです(笑)。

私、200年くらい生きたいんです。

100歳で大恋愛して。

「100歳にしては若く見えますね」なんて言われて、ほろっときたりして(笑)。

この先、結婚できるかは分からないですけど、そばにいてくれる人がほしいとは思いますね。

だからこそずっとキレイにしていたいですね。

私は近道より回り道の人生でしたが、これが良かったと思うんですよ。

回るだけ回って、何十年もロスしましたが、いま振り返ればロスでもミスでもなく、それが一番の私の生き方だった。

だから、巡り合えた歌や、なし得たことがあるんだと思います。

人生100年時代ですから、本当に100歳の大恋愛もあり得ますよね。

私の結婚会見のニュースの字幕に天童よしみ(100歳)って入っていたら、皆さんどう思われるのやろって(笑)。

それまで、頑張ります。

取材・文/多賀谷浩子 撮影/下林彩子 ヘアメイク/市岡利之

 

歌手

天童よしみ(てんどう・よしみ)さん

大阪府出身。幼い頃から歌のコンテストで優勝し、1972年に10代で歌手デビュー。2022年には50周年を記念して、シングル第1弾「あなたに咲いた花だから」、第2弾「帰郷」、アルバム『帰郷』をリリース。

『湯道』

2月23日(木・祝)より公開
監督:鈴木雅之 企画・脚本:小山薫堂
出演:生田斗真 濱田 岳 橋本環奈 小日向文世 天童よしみ クリス・ハート 他
配給:東宝 
(C)2023「湯道」製作委員会

亡き父が遺した実家の銭湯「まるきん温泉」に突然戻ってきた建築家の長男・史朗(生田斗真)が、銭湯を切り盛りする次男・悟朗(濱田岳)や住み込みのいづみ(橋本環奈)、個性豊かな常連客とともに銭湯の温かさに触れ、新たな毎日を見出していく物語。銭湯のセットや街並みも懐かしい、心が整い、元気のわく一作。

この記事は『毎日が発見』2023年2月号に掲載の情報です。

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