「いまの私は、老いの実況中継」90歳の評論家・樋口恵子さんに訊く「バイタリティ豊かに生きるコツ」

90代でも現役宣言! それぞれの分野で活躍されている方にインタビューしました。今回は、評論家で東京家政大学名誉教授の樋口恵子さんにお話を伺いました。

「いまの私は、老いの実況中継」

樋口恵子さん(評論家)90歳

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先日は、愛猫がベッドから落ちないように注意していたら、自分が落ちました。

ヨタヘロ期でも、人と接することが元気の秘訣

90歳を迎えてもカルチャーセンターで講座を持ち、ご自身の出版記念講演会では、多くの参加者の笑いを取りながら話を進め、サインにも応じる樋口恵子さん。

「講演といっても、話していることは『老いの実況中継』です(笑)。

いくら想像力の豊かな人でも、その年になってみないと分からないことがありますからね。

60代で固有名詞が出てこないが始まって、70~80代は転倒適齢期。

90代になったら何もしていないのに転んで、人を呼ばないと立ち上がれない。

でも、そういうヨタヘロ期は誰にもやってきますから、悪戦苦闘しても仕方がない。

私は、人の顔を覚えられないけれど、活字は覚えられるのね。

人には得手、不得手があるので、年をとったら不得手なことはやらず、得手なことだけやって楽しく生きる。

そうすれば、意外と長持ちしますよ」

ただし、年を重ねても楽しく長持ちをさせるには、「人と接すること」が一番大切と樋口さん。

「いま、高齢者医療の専門家の先生たちが盛んに警鐘を鳴らしているのは、人付き合いを全くしない人は、運動を全くしない人よりも老いが進むということ。

私が90歳でも元気でいられるのは、仕事柄多くの人と接しているからだと思いますね」

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「大病をしたときは介護保険のお世話になりましたが、いまは支援もなし。自分でリハビリ体操をしています」と樋口さん。

30代後半で評論家として活動を始めた樋口さんが、「高齢社会をよくする女性の会」を設立したのは、50歳のとき。

それから現在まで理事長を務め、高齢社会の問題を調査し、講演を続けているのですから、すごいバイタリティです。

「日本の女性の平均寿命は男性よりも6、7年長いので、高齢になるほど女性が多くなります。

2021年の90歳以上の男女比は、男性25・9%、女性74・1%。

女性の方が3倍も多いのです。

介護保険が発足した2000年頃までは、長生きしたご褒美として、孫に囲まれて息を引き取るという最期がありましたが、いまは高齢者夫婦や独居の高齢者世帯が増え、家族構成が全く変わってしまった。

私は『ファミレス社会』、つまり、ファミリーがない社会、少ない社会だと言っていますが、気が付けば出生率も世界最低で、高齢者率は世界一。

介護保険があっても、働き手がなく十分な介護が危ぶまれる超高齢社会になってしまった。

この先、大変ですよ」

そんな日本の状況を見据え、樋口さんは随分前から「70歳現役社会の実現」を提言してきました。

「女性は一度仕事を辞めてしまうと家に入ってしまう人が多い。でも、仕事をして人とつながっていれば、老化予防になるし、少ない年金が頼りの貧乏婆さんにならずに済むんです。

60歳以上ならシルバー人材センターなどに登録して仕事をするのもいいと思います。

我が家でも、こうして取材がある日などは、シルバー人材センターにお願いしています。

料理が上手な人、お掃除が得意な人がいて、とても助かっています。

いつまでも元気でいるためには、社会と、隣近所とお医者様とつながりを作っておくこと。

そして家族に対しては、『あなたのお世話にはなりません』なんてことを絶対に言ってはいけません。

自宅で脳卒中になり、発見まで1日かかってしまったら、お医者様は死亡診断書を書いてくれません。

行き先は警察です。

自分の死亡診断書は自分では書けないのですから、結局人は、誰かの世話になるしかないのです。

少し気に入らない嫁であれ何であれ、にっこり笑って『結局、あなたのお世話になるのね、よろしくね』と言っておきましょう。

相手はゾッとするかもしれないけれど、それが90代を安心して生きる秘訣です(笑)」

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超高齢化社会の問題に長年向き合ってきた樋口さんだからこその、痛快エッセイは大人気!

取材・文/丸山佳子 撮影/原田 崇

 

樋口恵子(ひぐち・けいこ)さん

評論家。東京家政大学名誉教授。高齢社会をよくする女性の会理事長。 父は考古学者の柴田常恵。広く首都圏各自治体主催の講演会などで活動。男女共同参画審議会のメンバーを務めた。著書は『老いの福袋』(中央公論新社)、『 老~い、どん!』(婦人之友社)など多数。

この記事は『毎日が発見』2023年1月号に掲載の情報です。

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