直木賞・本屋大賞受賞のベストセラー作家・辻村深月の原作を、『あん』の河瀨直美監督が映画化した『朝が来る』(2020年10月23日公開予定)。実の子を持てなかった夫婦と、実の子を育てることができなかった少女。さまざまな葛藤を抱える登場人物たちを描く本作には、永作博美さん、井浦新さんら実力派キャストが集結。浅田美代子さんは「特別養子縁組」のあっせんをするNPO法人の代表・浅見を演じています。
人に人を預けるってすごいこと
――浅見には優しさや温かさを感じると同時に、信念を持つ人ならではの 〝すごみ〟を感じてしまいました。
浅見のモデルになった、特別養子縁組の団体で代表をされている方に何度かお会いしたんですけど、人に人を預けるって、すごいことだと思うんですね。
ただ、どうしても〝産みの親〟に対してモヤモヤする部分が残っていたんです。
「なぜ産んで手放すの?」「自分で育てられるんじゃない?」って。
それでもう一度代表にお話を聞こうと、自分で車を運転して会いに行ったら「浅田さんがそう思われる気持ちは分かります」と前置きをされた上で、「でも、実の親だからといって無理に育てた結果、虐待されてしまう子どももいる。私は生まれてくる子どもが幸せになるためにやっているんです」とおっしゃったんですね。
それで、ああなるほどって。
とにかく、ただ〝いい人〟の芝居はやりたくなかった。
それって嘘っぽいじゃないですか。
代表の女性も明るくて優しい方でしたが、自分が防波堤になることで子どもを守りたい。
そのために言うことはきちんと言うという毅然(きぜん)とした強さも感じられました。
特別養子縁組という制度を知ってほしい
――河瀨組では登場人物そのままの生活をすることが求められるそうですね。
河瀨さんはそれを「役を積む」とおっしゃって、スケジュール表にも「役積み」の時間が組み込まれているんです(笑)。
私もロケ地の離島の施設で若い女の子たちと食事を作って一緒に食べたりしながら生活していました。
ご近所さんと施設の庭先でバーベキューをするシーンがあるんですけど、あの方たちは実際に近くに住んでいる島民の皆さんなんですよ。
普段から料理を持ってきてくれたり親切にしていただきました。
あの場所は景色もきれいで心が洗われるようでした。
何年か後にまた行きたいと思うぐらい。
――とても考えさせられる内容でしたが、どのようにご覧になりましたか?
最初に2時間19分と聞いたときは長いって思ったんですけど、観てみたらまったく長さを感じなかったですね。
重い内容ですが、希望が持てるものになっていましたし、養子を夫婦の籍に入れて実の親子のような関係を結ぶ「特別養子縁組」という制度があることを知っていただけるだけでも意義があると思うんです。
実際に何組かの養親と養子のご家族にお会いしましたが、どの子も本当に明るいし、幸せそうなんです。
素晴らしいですよ。
ただ心地よくいられたら
――浅見は縁をつなげる人でしたが、浅田さんがつながりを感じることとは?
昔、よく(樹木)希林さんに怒られたんですよ。
「美代ちゃん、洋服いっぱいあるんだからもう買わないで」って。
しまいには「〝癌(がん)〟って病垂れに、品の山って書くのよ。品物に埋もれてると癌になるんだから」なんて(笑)。
そのせいか40歳過ぎぐらいから、あんまり物欲みたいなものがなくなっちゃったんですよね。
いまはただ心地よくいられたらって。
そういう感覚は希林さんから引き継いだ気がします。
取材・文/鷲頭紀子 撮影/吉原朱美