みずみずしい触感!島根県出雲市「幻のしょうが」とは
「幻のしょうが」と呼ばれるブランド「出西しょうが」の生産者、永戸 豊(ながと ゆたか)さん。
町の特産として伝統のしょうがを守り続けています。
採れたての出西しょうが。ほのかなピンク色が美しく、青々しい葉っぱからも爽やかな香りが広がります。
出雲市の一地域にしかない色白の希少なしょうが
春は「新しょうが」のタネ植えの季節です。
ピンク色を帯びた白い皮に緑の葉が付いた採れたてのしょうがのことですが、島根県出雲市斐川(ひかわちょう)町の出西(しゅっさい)地域に「幻のしょうが」と呼ばれるブランドしょうががあることをご存じですか?
その名も「出西しょうが」。この地域だけで生産されており、全国に出回ることはほとんどないため、このように呼ばれています。
その歴史は古く、400年以上も前から栽培されているとも。
出西生姜組合の設立者で生産者の永なが戸と豊ゆたかさんによると、「大むかし、このあたりは出西村といってね。海に面していたようで、どこからか流れ着いて自生したのが始まりだとか、九州の大分県にある宇佐神宮から勧かん請じょう(神の分霊を迎えること)した出西八幡宮を建立するとき、九州や四国からやってきた宮大工がここに持ち込んだとか、いろんな言い伝えがあるようです」。
親指ほどの大きさで株分かれした小ぶりの出西しょうがは、よく見る茶色い皮の根しょうがとは異なり、色白でツヤツヤ。
繊維質が少なく、みずみずしい食感と、ピリリとした辛味、すがすがしい香りが特徴です。そんなしょうが、一体どんなところで作られているのでしょうか?
収穫真っ最中の8月(※取材・撮影は2019年8月に行いました。)、永戸さんの畑におじゃましてみました。
消えかけた出西しょうがを町の特産として再生
代々農家の永戸 豊さん。収穫した出西しょうがは、洗った後、午前中に出荷します。「自分が広めたからね、長く守っていきたいよ」
「このしょうがは生きがい。収穫の季節は自然と元気になるよ」
早朝5時。
朝霧が立ち込めるなか、昇る太陽が少しずつ山々を照らし始めるころ、出西しょうがの生産者、永戸豊さんの一日は始まります。
畑があるのは、出雲市を流れる斐伊川(ひいかわ)の下流域。
そよそよと風に揺れる葉は美しく、レモングラスのような爽やかな香りがあたりを包んでいます。
「5月上旬にタネしょうがを植えると、7月に芽が出て8月から10月が収穫期。一年でいちばん忙しい時季だよ」と、永戸さんは畑に入っていきました。
永戸さんが出西しょうがを本格的に作り始めたのは、約20年前。
1965年頃までは盛んに生産されていましたが、国内外の安価なしょうがの流通で生産は減少。
数軒の農家が自宅用に細々と栽培する程度だったといいます。
1988年、地域の特産品として出西しょうがをブランド化するために5人の農家が集まり、「出西生姜組合」を設立。各々が手持ちのタネを持ち寄って栽培したところ、大きさも色も味もバラバラだったため、「統一していいもんにまとめないけん」と一念発起!
色や味が優れたものを選り分け、約5年かけて統一したそうです。
風土が生んだ稀有な風味にいまや全国から注文も!
収穫は、畝(うね)の幅に合わせた台車を手で押しながら進めます。
一本の畝の長さは約100m。
永戸さんは10月末まで毎日、一人で何往復もして一日約100kgを収穫します。
「大きく育った葉を選んで抜くんよ。夜の気温が25℃より下になると、大きく育つ。今年は7月に雨がたくさん降ったから、いいよ!」
斐伊川が流れるこの地はもともと肥沃な農地。
「斐伊川おろし」と呼ばれる風が吹き、寒暖差が大きい気候も、出西しょうが独特の食感や風味を生み出す理由ともいわれますが、実のところ、永戸さんも詳しくは分からないそう。
「でも、ほかの地域で栽培すると、なんでかこうはならないんよね」。
その笑顔は、愛情いっぱいに育てた自慢のわが子のことを話すようでした。
問い合わせ・注文先/出西生姜組合
電話:0853-72-3945
FAX:0853-25-8639
注文は8月中旬以降から10月頃まで。1kg約3,500円(送料込)
構成・取材・文/岡田 知子(BLOOM) 撮影/古川 誠