イワン・クラムスコイ《忘れえぬ女(ひと)》
1883 年 油彩・キャンヴァス © The State Tretyakov Gallery
2018年11月23日〜2019年1月27日まで、東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムにて、「国立トレチャコフ美術館所蔵 ロマンティック・ロシア」が開催されます。2019年9月にBunkamuraが30周年を迎えることを記念した取り組みの一つとしてのこちらの展覧会は、帝政ロシア時代の人々のぬくもりに触れられる機会となっています。中でも注目されるクラムスコイの名作《忘れえぬ女(ひと)》は、約10年ぶりの来日です。
イワン・クラムスコイ《月明かりの夜》
1880 年 油彩・キャンヴァス © The State Tretyakov Gallery
そのクラムスコイの、もう1つの名作が《月明かりの夜》です。白いドレスをまとった女性が古いベンチに腰掛ける様子が、月明かりに照らし出されています。女性と対照的に周囲は闇に包まれ、そのコントラストが静けさを生み出し、月夜の詩情を感じさせてくれます。
19世紀後半から20世紀初頭の激動のロシアといえば、音楽界ではチャイコフスキー、文豪はトルストイやドストエフスキーが有名ですが、美術界でも多くの才能が光っていました。クラムスコイや若手画家によって組織された、啓蒙的意図を持つ移動派。懐古的なロマンティシズムにあふれた作品を多く生みだしたクズネツォフらなど、それぞれの作風こそ違えど祖国に対する愛は共通するものがありました。
ワシーリー・バクシェーエフ《樹氷》
1900 年 油彩・キャンヴァス © The State Tretyakov Gallery
ロシアの雄大な大地こそ、ロマンティックそのものです。広大なスケールならではの温度や湿度が、多くの作品から感じられます。ワシーリー・バクシェーエフの《樹氷》もそのひとつ。真っ白な樹氷と、透き通った青空の色が印象的です。
イワン・シーシキン 《雨の樫林》
1891 年 油彩・キャンヴァス © The State Tretyakov Gallery
思わず吸い込まれてしまいそうな深い森を描いたイワン・シーシキンの《雨の樫林》は、物語のワンシーンそのもの。季節の移り変わりとともに異なる表情を見せる森の姿を、さまざまな角度から楽しむことができる作品が集うのも見どころとなっています。
大地や森だけではありません。ロシアの都会にも、ロマンはあふれていました。絵画の中にある都市の風景からは異国の情緒を、そこで生きる人々の様子からは様々なドラマを感じ取ることができます。また、都市に限らず、郊外にも心温まる風景があります。ロシアの人々が郊外のセカンドハウスで穏やかに過ごす様子が、ウラジーミル・マコフスキー 《ジャム作り》からは伝わってきます。
広大な自然と、人間の豊かさにあふれた絵画の数々からは、当時のロシア画家がどのようにその土地を、人々を見ていたのかを感じることができます。深い精神世界を味わいつつも、ありのままのロシアを楽しむことでモスクワの空気に満ちた時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。