縄文人の死生観~死は消滅ではありません。自然に還って存在し続けるのです

pixta_30849372_S.jpg自然と共生し、隣人と調和しながら、約1万年もの間、穏やかな暮らしを持続していた縄文々。彼らは「生」と「死」をどのように捉えていたのでしょうか。墓制などから縄文時代の社会を研究する先史学者、山田康弘さんに伺いました。

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死を遠ざけなかった縄文人の生き方

現在、私たちが持っている死のイメージと、縄文の人々のそれとは、まったく違うものだったと、山田さんは言います。
「現代では死は忌み嫌われているイメージがありますが、縄文人にとって死はもっと身近でした。この時代は、集落の中央にある広場にお墓を作ったり、家の中に埋葬したりすることが多くありました。広場や家に遺体をしばらく置いていた例も見られます。つまり、彼らは死や死者を恐れていなかったのです」。

その根底にあるのが、「生命は再生する」「生命は自然の中を循環していく」という、「再生・循環」の観念です。

「現代では、死は自分がこの世からいなくなる"消滅"や"無"のイメージを持つ人が多いですが、縄文人にとって、死は『自然に還ってもう一度生まれる』ための出来事でした」。

この時代の「生」の象徴といえば、生命を生み出す出産に関するものが多く挙げられます。
「土器や土偶がたくさん作られましたが、出産に関するデザインが多いんですね。土偶はおなかや腰のあたりが膨らんだだものがよく見られますが、これは妊婦をかたどったものだといわれています。

また、土器には、赤ちゃんの顔のようなものが装飾されていたり、出産時の光景を表したようなデザインもあります。土器の中に赤ちゃんや、時には成人の遺骨を入れる『土器棺墓(どきかんぼ)』という埋葬方法がありますが、これは、土器を母体に見立て、もう一度生まれ変わることを願ったといわれているんですよ。お墓の副葬品として、遺体と一緒に土偶が埋められていた例もあります」。

 
全てに宿る魂は自然の中で生き続ける

縄文時代には、生物だけでなく、この世に存在する全てのものに魂(アニマ)が宿るという思想「アニミズム」がありました。縄文の人々は、常に周辺にさまざまな生命や魂を感じながら、生活していたことになります。こんな考えから「土器棺墓(どきかんぼ)」には、動物の頭や木の実などが入っていたこともあるそうです。
 
そんな生活において、人の死もまた、自然界に起こり得る当たり前のことの一つでした。「縄文の人々にとっても死への不安や恐怖は当然あったと思います。でも、人は死んだらいなくなるのではなく、風となり、鳥となり、星となり、自然に還って存在し続け、やがて再生する。そう考えることは、彼らにとって『心の処方箋』として機能していたと考えています」。

 

再生・循環を思えばもっと豊かな人生に

縄文の人々は、私たちと同じように見たり、感じたりできるホモ・サピエンス(現生人類)でした。山田さんいわく、日本人の精神や考え方などの基盤がここにあるのだそうです。最近は、自分の遺骨を山や海に散骨する「自然葬」を希望する人も増えていますが、これも「生命は自然に還って再生する」という縄文時代の思想が、いまも私たちの心の中に脈々と受け継がれているからでは、と山田さん。

「縄文時代の死生観は、人類史から見ても最も根源的な観念の一つです。現代は科学文明が発達したにもかかわらず、経済や環境、家庭や仕事などのさまざまな問題があり、死に対する恐怖や不安を持つ人も多くいます。閉塞感を強く抱えるいまだからこそ、その観念が人々の『心の処方箋』として求められているのでしょう。自分は消滅するのではなく、自然のあらゆるところに存在して生き続ける、と思うことができれば、死の迎え方やクオリティ・オブ・デス(死の質)も、とても豊かなものになるのではないでしょうか」。

 

 

~「縄文」を知る4つのキーワード~

土偶

人間をかたどった土製品で、縄文時代ごろから盛んに作られた。ほとんどが女性、特に妊婦の姿を表し、生命を生み出すため、あるいは再び生命を与えるための呪術に使う道具だったと考えられている。

土器
縄文時代に多く作られた土製の器。基本的には深い鉢の形で、主に調理の他、遺骨を入れる棺としても使われた。時期や地域により形や文様も多様。文様は縄目や木、貝などを使ってつけられていた。

平均寿命
人骨から死亡年齢を調べると、最も多いのは40~50歳ごろ。ただし、乳幼児の死亡率も高かったため、平均すると寿命は30歳くらいといわれている。


「土器棺墓」の他、最も多いのが地面に穴を掘ってそのまま遺体を埋葬する「土坑墓(どこうぼ)」。手足を曲げた「屈葬(くっそう)」の姿勢で埋葬されることが多かった。

 

取材・文/岡田知子(BLOOM) 

 

2018年7月3日(火)~9月2日(日)
●東京国立博物館(平成館)
特別展「縄文―1万年の美の鼓動」

住所:東京都台東区上野公園13-9 
電話:03-5777-8600(ハローダイヤル)
時間:9:30~17:00。金・土曜は~21:00、日曜および7月16日(祝)は~18:00(入館は各30分前まで)
休み:月曜、7月17日。7月16日(祝)、8月13日(月)は開館
料金:一般:1,600円
交通:JR上野駅公園口、鶯谷駅南口より徒歩10分

 


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山田康弘(やまだ・やすひろ)さん

1967年、東京都生まれ。国立歴史民俗博物館研究部教授、先史学者。縄文時代を主とする先史墓制論・社会論が専門。著書に『老人と子供の考古学』(吉川弘文館)、『縄文人がぼくの家にやってきたら!?』(実業之日本社)他。







 

『縄文人の死生観』

(山田康弘/角川ソフィア文庫)

720 円+税

精いっぱい生き、死への恐怖とも闘った縄文の人々の墓や遺物。そこにある自然や母胎への回帰、再生を巡る死生観とは?スピリチュアルブームや散骨葬など現代日本人の死のあり方をも読みとく、墓の考古学。

この記事は『毎日が発見』2018年7月号に掲載の情報です。

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