「年を取ると時間が早い」「写真の自分の顔に違和感がある」など、私たちの暮らしの中で感じるちょっとした不思議、実は科学で解明されているものも多いそうです。そこで、世界600万人が支持したニューヨークタイムズベストセラー『いきなりサイエンス 日常のその疑問、科学が「すぐに」解決します』(文響社)から厳選し、誰かに伝えたくなる「科学の雑学」を連載形式でお届けします。
不眠3日目にはなにが起きるのか?睡眠不足の怖さ
ああ、眠い眠い......。徹夜明けや寝不足が続いた日でなくとも、いくら寝ても寝たりないように思えることはないだろうか?睡眠は、われわれの中でもっとも重要な欲求のひとつである。
成人の場合、1日の睡眠時間が何時間程度の人が長生きしやすいと思うだろうか?答えは「6~8時間の人」だ。
睡眠時間の取りすぎは、かえって医学的な問題(心疾患や糖尿病など)を引き起こす。同じように、慢性的な睡眠不足も、心疾患や肥満、うつ病、それに脳損傷の原因になりうると言われているのだ。
もし、眠るのを完全にやめたらどうなるだろうか?まず、徹夜初日を過ぎると中脳辺縁系が刺激され、ドーパミンが放出されることになる。意外なことにエネルギーが活性化され、意欲ややる気、性欲まで高まることになるのだ。
こう聞くと、いいことずくめに思えるかもしれない。しかしこのあと、それこそ坂道を転げ落ちるように、健康状態は悪化していく。
まずは、脳内にある意思決定や計画を司る領域の働きがにぶくなり、衝動的な行動が多くなる。また、どうしようもない疲労感に襲われはじめ、知覚・認知機能が失われていく。
まったく寝ない状態が2日続くと、身体からブドウ糖を代謝する能力が失われ、免疫システムも働きを止めてしまう。
そして、不眠状態が3日以上続いた場合、幻覚を見ることもある。体が震え、会話が困難になったり、食べものを欲するのにうまく食べられなくなったりする。
見た目はどうなるのだろうか?研究では、睡眠不足とその人の外見の美しさには直接関係があることが明らかになっている。睡眠不足になると、十分休養を取っていたときと比べ、私たちの外見はより不健康・不健全になり、美しさが奪われていく。
研究者が立ち会って確認した最長不眠記録は、なんと264時間(11日間)だ。しかも、カフェインなどの興奮剤は一切使わずに樹立した記録である。
しかしながら、この記録を作ったランディー・ガードナーは、途中で集中力や認知力がにぶったり、怒りっぽくなったりしたものの、驚くべきことに、長期にわたる健康への深刻な悪影響はなにひとつ見られなかった。
実際、同じ状況を体験した被験者たちの中で、医学・生理学・神経学・精神医学上の問題を抱えた人はだれもいなかったという。とはいえ、これはもちろん限定的な結果にほかならない。もしこれ以上睡眠不足が続いたら、被験者たちの体に永久的な損傷がもたらされた可能性は十分にある。
たとえばネズミを用いた睡眠不足の実験では、平均約2週間でネズミが死んでしまうことが明らかになっている(ただし、ネズミの死因が睡眠不足によるものなのか、ずっと起きていたことによるストレスによるものなのかは特定できていない)。
この答えを見つけるために注目すべきなのは、「致死性家族性不眠症」という病気だ。これは眠ることができなくなる、脳にまつわる非常に珍しい遺伝子疾患だ。眠れないがゆえに幻覚を見たり、認知症になったりして、最終的には死を迎えることになる。
この病気の患者は、世界でも100人しかおらず、発症後の余命は平均約18カ月といわれている。時間の経過とともに不眠症状がどんどん悪化し、身体や脳の元気を回復する機会が完全に失われてしまうのだ。今後の、研究の進歩がもっとも期待される病のひとつである。
睡眠不足になっても、必ずしもすぐに死ぬわけではない。とはいえ、ずっと睡眠不足の状態が続けば、あなたの体に悪影響が及ぶのは明らかだ。
ちなみに、極度の睡眠不足が続くと、ヒトの体は自動的にマイクロスリープに入る。これは数秒、数分単位で睡眠状態におちいることだ。いわゆる「うとうとする」状態だ。
このマイクロスリープのおかげで、少々の睡眠不足でも脳の機能を保てているという説もある。これはとてもすごい機能ではあるが、無理をしていることに変わりはない。寝られるときにちゃんと寝よう。
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