怒ってメリットある?イラッときたら思い出したい「スプーンの思考」

「いつも自分を人と比べてしまう」「自分は損ばかりしている」。そんな想いで日々モヤモヤしている方、いませんか? そんなときにぜひ知ってほしいのが、今から2500年も前の中国の思想家・老子の言葉。45年間で10万人を診察した精神科医が、その老子の言葉を「意訳」ならぬ「医訳」をしてわかりやすく解説して話題の書籍から「ジャッジフリー」な考え方を連載形式でお届けします。

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仕事にせよ、プライベートにせよ、自分が思う通りに事が運ばなければ、イライラしたり、怒りを覚えたりするのは当然です。

人間なので「つい、怒ってしまう」というのはなかなか避けられないのですが、ぜひともここで「怒るって、どれほどのメリットがあるのだろう?」「怒ることで、ほんとうにいろいろうまくいくのかな?」と客観的に考えてみてほしいのです。

自分の過去を振り返ってみても、怒りを相手にぶつけたところで本質的な問題が解決したということは、そうそうないのではないでしょうか。

たとえば怒鳴り声を上げれば、一時的にまわりの人が言うことをきいてくれるかもしれません。職場の上司やリーダーなら、役職がありますから、なおさらみんなが言うことをきくでしょう。

しかし、長い目で見れば、人としての信頼を失いますし、みんなとの距離は(物理的にも、精神的にも)だんだん遠ざかってしまいます。まして上司やリーダーの場合、「怒って言うことをきかせる」なんてマネジメントをしていると、部下が本気で力を尽くしてくれるわけがありません。

また、友人同士のようなフラットな関係でも、相手に怒りをぶちまけて、うまくいくことなどまずありません。自分がスッキリするならまだしも、言った側も「ああ、なんだか言いすぎちゃった......」「こっちも、なんだか気分が悪いわ」と後悔することのほうが多いはず。

では、そんな怒りが湧き上がってきたとき、頭の中でどう考えればいいのか?ここで「スプーンの思考」です。

ナイフは、グサッと刺したり、切り刻んだりする道具ですから、相手のダメージとなることをストレートにやり返すという反応です。フォークは、尖とがった先端を使って、チクチク相手を刺していくという方法。

一方、スプーンは相手を優しくすくい上げるというイメージです。「腹の立っている相手に、優しくするなんてありえない!」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。でも、ただ単に優しくするわけではありません。相手よりも大きな存在になって、相手を自分のスプーンの上にのせる。言ってみれば、手のひらの上で踊らせる、といったイメージでしょうか。

ちょっといじわるな思考にも思えますが、ナイフで相手を直接グサッと刺すよりも、ずっと大人な対応だと思います。「勝ち負け」で考えるのが好きな方なら、こっちのほうがよっぽど「勝ち」な振る舞いではないでしょうか。

冷静に、客観的に考えてみると「怒りをぶつける」というのは、あまりいい方法ではないのです。それは、あなた自身もよくわかっていることだと思います。

老子が言うように、優れた戦略家ほど、無闇に怒りをぶつけたりはしません。理由はじつに簡単で、「いいことはあまりない」とよく知っているからです。

■今回の老子のことば
善(よ)く戦う者は怒(おこ)らず
善(よ)敵に勝つ者は与(あらそ)わず。


【医訳】
優れた戦士や戦略家は荒々しくはしないものだ。相手に怒りを向けることもなく、争いもしない。しかし勝負には勝つものである。

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老子の32の言葉を、わかりやすく優しい視点で解説。元気が出ます!

 

 

野村総一郎(のむら・そういちろう)

医学博士。元防衛医科大学校病院長。1949年生まれ。慶應義塾大学医学部を卒業後、テキサス大学、メイヨー医科大学に留学。。帰国後、藤田保健衛生大学精神医学室助教授、国家公務員共済組合連合会立川病院神経科部長。そして、平成9年に防衛医科大学校教授、平成24年に防衛医科大学校病院病院長に就任、現在は六番町メンタルクリニックの院長として、仕事や人間関係に悩む人の相談、カウンセリングを行っている。また平成18年より読売新聞の人生案内での回答者も務める。


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『人生に、上下も勝ち負けもありません 精神科医が教える老子の言葉』

(野村総一郎/文響社)

「ある日、患者さんにポロッと老子の言葉を話すと、泣き出してしまったのです」。読売新聞「人生案内」の回答者であり、45年間で10万人を診察した精神科医が紹介するのは、2500年の時を超えたいまなおみずみずしい「老子」の言葉の数々。優しい視点とわかりやすい解説による「32の思考」を紹介し、発売後即重版となった話題の一冊です。

※この記事は『人生に、上下も勝ち負けもありません 精神科医が教える老子の言葉』(野村総一郎/文響社)からの抜粋です。
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